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弁護士ブログ

「改正債権法拾遺~施行までに整理しておくべきこと①-経過措置その4~消滅時効期間」

2019.12.11|甲斐野 正行

引き続いて改正債権法の経過措置です。

 

これまで見てきましたように、改正債権法では、意思表示や法律行為のされた時期が改正法適用の基準とするのを原則としており、多くの経過措置では、債権の発生時点や契約締結時点を基準時としています(附則2条、3条、5条、10条1項等)が、例外的に、当事者の予測を害するとは考えにくく、しかも、改正法の適用範囲を広げることで法律関係の安定化・明確化などの政策的な必要性が高いなどの場合に、この原則よりも改正法の適用範囲を広げる場合があります(附則33条1項、35条)。

 

そこで、今回からは、この原則に対する例外について見てみます。

 

まず、重要なのは「消滅時効の期間」です。

 

消滅時効の期間は、改正法で大きく変更されたのですが、債権が施行日前に生じた場合は旧法、施行日以後に生じた場合は改正法が適用されるのが原則です(附則10条4項)。ただし、経過措置その2で触れましたように、施行日以後に債権又は債務が生じた場合であっても、その原因である法律行為が施行日前にされたときは、施行日前に債権又は債務が生じた場合に該当することに気をつける必要があります(附則10条1項、17条1項。例えば、施行日前の契約について、施行日後に債務不履行があったときの損害賠償請求権や、施行日前の賃貸借契約に基づいて、施行日後にまたがって月々発生する賃料債権は、その原因である契約の締結日が基準となります。)。

 

この原則に対する例外が、不法行為に基づく債権の時効期間です(附則35条)。

改正法は、不法行為に基づく損害賠償請求権について,旧法下では、判例上除斥期間と理解されてきた不法行為時からの長期20年の権利消滅期間(旧法724条後段)を消滅時効期間に改めました(改正法724条2号。これにより、旧法下の除斥期間という考え方では中断を認める余地がなく、20年の経過で一律に権利が消滅していたのが、改正法下では時効の更新が認められることになります。)。

また、短期消滅時効期間については、一般の不法行為の場合は旧法と同じく「損害及び加害者を知った時」(主観的起算点)から3年ですが(改正法724条1号)、人の生命身体を害する不法行為の場合には、被害者救済の観点から、損害及び加害者を知った時から5年に伸長しました(改正法724条の2)。

 

そして、経過規定に関しても、被害者救済を優先するという政策的観点から,改正法の適用場面を広げるべく,以下の例外を設けています。

 

   ①    不法行為による損害賠償請求権における長期の消滅時効期間(改正法724 条2号)については,旧法724条後段の20年の除斥期間が,施行日に既に経過していた場合に限って,旧法が適用されます(附則35条1項)。

そうすると、2000年4月1日以降に発生した不法行為による損害賠償請求権については、施行日である2020年4月1日までに20年が経過していないため、附則35条1項により、長期20年の権利消滅期間は遡及的に消滅時効期間であったものと扱われ、施行日前に中断・停止事由に該当する事由が発生していたときは、短期の消滅時効期間だけでなく、長期20年の権利行使期間についても中断・停止の効果が発生していたものと扱われることになります。
    その不法行為が人の生命・身体を侵害するものである場合の損害賠償請求権の短期5年の消滅時効(改正法724条の2、724条1号)については,旧法724条前段の短期消滅時効期間(3年)が既に経過していた場合に限り,旧法が適用されます(附則35条2項)。
   つまり、施行日時点で3年の短期消滅時効期間が経過していなかったとき(中断・停止事由により時効が完成していなかった場合も含まれます。)には改正法が適用され、その損害賠償請求権の短期消滅時効期間は5年になるのです。

 

そうすると、例えば、2000年5月1日に人の生命身体を害する不法行為があり、被害者が、損害及び加害者を知ったのが2018年4月1日であった場合、施行日である2020年4月1日時点で、長期20年の権利消滅期間も、短期3年の消滅時効期間も経過していないことになるので、長期20年の権利消滅期間は消滅時効期間として扱われ、短期3年の消滅時効期間は5年に伸長されます。

その結果、(時効中断・停止事由がない場合)損害及び加害者を知ったときから短期5年の消滅時効期間が満了するのは2023年4月1日ですが、不法行為時から長期20年の権利消滅期間が満了するのは2020年5月1日ということになって、長期の満了のほうが早く到来するため、2020年5月1日をもってその損害賠償請求権の消滅時効が完成することになる(NBL1158号20p「債権法改正に関する経過措置の解説(3)」)など、5年の短期消滅時効と20年の長期権利消滅期間との経過時期が前後することがありますので、注意が必要です。

 

なお、人の生命・身体を侵害する場合の損害賠償請求権の法律構成としては、不法行為以外に、例えば雇用契約上の安全配慮義務違反などの債務不履行という構成もあり得ますが、不法行為構成の場合は、改正法724条2号により長期は20年、短期は改正法724条の2、724条1号により5年となり、債務不履行構成の場合は、長期は改正法167条、166条1項2号により20年、短期は改正法166条1項1号により5年となり、どちらの法律構成でも同じです。

 

次回も、もう少し、消滅時効の経過規定を見ていきます。

以 上

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