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弁護士ブログ

「改正相続法施行①ー預貯金払戻制度」

2019.06.20|甲斐野 正行

   2018年(平成30年)7月に,相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。

 

 日本は超高齢社会に突入し、社会や経済だけでなく、家族のあり方にも変化が生じており,今回の改正では,このような変化に対応するために,相続法に関するルールを大きく見直しています。

 

 そのうち自筆証書遺言の緩和など既に施行されたものもありますが、今年7月1日からはいよいよ重要なものが施行されます。

 

 そのうちの1つが今回取り上げる「預貯金払戻制度」です。

 既に金融機関によっては前倒しで実施しているところもあるかと思いますが、預貯金が遺産分割の対象となる場合に,各相続人は,遺産分割が終わる前でも,一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになります。

 

 もともと、被相続人の預貯金は、当然に遺産分割の対象となるように思われていたと思いますが、実は、法律上のルールはそうではありませんでした。

 2016年(平成28年)1219日最高裁決定が出るまでの判例では、預貯金は原則として「法定相続分(民法で定められた取り分)に従い当然に分割して承継される」とされていました。

 つまり、遺産分割を行わなくても、相続人は、法律上の建前としては、銀行など金融機関に対して、法定相続分に従った預貯金の支払を求めることができたのです(ただ、実際の金融機関の扱いとしては、遺産紛争に巻き込まれたくないため、共同相続人全員の同意を求めるところも多かったのです)。

 

 また、家庭裁判所で遺産分割調停を行う際も、預貯金を遺産分割の対象とすることについて相続人の間で意見が一致しないときは、預貯金は遺産分割の対象から除外されていました。

 

 ただ、預貯金は不動産のように分けにくい財産と異なり、数額で分けることができますので、遺産分割の際の調整弁として非常に有用であり、これが当然には遺産分割の対象とならないとすると、遺産の分け方が困難となり不公平が生じることがあります。そこで、上記の最高裁決定は、預貯金は「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と判断したのです。

 そうすると、反面として、遺産分割が終わるまでは、共同相続人の一人による単独での払戻しができない,ということになり、金融機関の窓口での扱いもそのように画一化しました。

 

 しかし、生活費や葬儀費用の支払,相続債務の弁済などの資金が必要な場合にも,遺産分割が終了するまでの間は被相続人の預貯金の払戻しができないというのは大変不都合です。

 そういう場合こそ共同相続人全員で協力して同意すれば済む話ですが、それがそうはいかないのが遺産紛争の残念なところなのです。

 

 そこで、遺産分割の公平を図りつつ、相続人のニーズに対応できるように、遺産分割前に預貯金の払戻しを認める制度として,(1)家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策と,(2)家庭裁判所の判断を経て預貯金の仮払いを得る方策の2つの方策が設けられました。

 

(1) 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しが受けられる制度の創設(改正民法909条の2

 遺産に属する預貯金のうち,一定額については単独での払戻しを認めるようにする。

 具体的には、相続開始時の預貯金額(口座基準)に、払戻をしようとする共同相続人の法定相続分の13の範囲内で単独で払戻しをすることができるようになります。

 例えば、相続人が、亡くなった方の奥さんと息子2人であり、預金1200万円で、長男が払戻を受けようとする場合、長男の法定相続分の1413を掛けた額は100万円ですから、息子は100 万円を単独で払戻しが可能になります。

 ただし,法務省令により、1つの金融機関から払戻しが受けられるのは150万円までとされますので、1つの金融機関の預金額が2400万円の場合、同じ例で、長男の法定相続分1413を掛けた額は200万円ですが、200万円を下ろすことはできず、150万円が限度となります。

 そして、権利行使して取得した預貯金については,権利行使した相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。

 

(2) 預貯金に限り家裁の仮分割の仮処分(家事事件手続法2002項)の要件を緩和

 仮払いの必要性があると認められる場合には,他の共同相続人の利益を害しない限り,家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようにする。(家事事件手続法の改正)

 もともと、遺産分割で揉めていて、家庭裁判所の調停をする必要がある状況で、生活費や葬儀費用等の支払いで遺産の預貯金を早急に降ろさなければならず調停が終わるまで待っていられない、という場合に、裁判所に遺産の預貯金の一部について分割するよう仮の決定を出してもらい、遺産の一部の預貯金について早急に払い戻しを受けられるようにする、という手続として、仮分割の仮処分制度があり、上記の最高裁決定の補足意見でこの仮処分手続の利用が指摘されていました。そこで、この制度を利用しやすくするというものです。

 遺産分割の審判または調停の申立てをすることが前提条件ですが、①相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を申立人または相手方が行使する必要があると認められるときは,②他の共同相続人の利益を害する場合でない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金の全部又は一部を申立人に仮に取得させることができます(家事事件手続法2003項)。

 

 (1)の方策については限度額が定められていることから,小口の資金ニーズについては(1)の方策により,限度額を超える比較的大口の資金ニーズがある場合については(2)の方策を用いることになるものと考えられます。

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