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弁護士ブログ

不動産賃料の保証

2015.01.05|甲斐野 正行

あけましておめでとうございます。
弁護士の甲斐野です。
日々の弁護士業務に当たっていろいろ考えさせられることや悩みが多いのですが、そのなかで皆さんのご参考になるようなことどもを備忘的に綴ることにしました。
更新がどの程度まじめにできるかは怪しいところですが、気長におつきあいください。
 
1回目は、賃貸不動産の契約解除・明渡請求事件です。
賃料をいくつも溜めたりして、もうこの人に貸しておくことはできないという状況になったときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができますが(家賃滞納による契約解除は3か月分が一つの目安とされることが多いです。)、実際にきちんと出て行ってもらうところまで実現するには、①賃貸借契約を解除するので、賃借人に貸家を明け渡すように命じる判決を裁判所に求めて、これを出してもらう→②その判決が出ても任意に出て行かない場合は、その判決に基づいて裁判所執行官に強制執行をしてもらう、という段取りが必要になり、これは手間も費用もかかります。強制執行まで行くケースは、出て行く先がないということで、賃借人自身の身体は退去させられても、家財道具(場合によっては犬などのペットもあります。)をすぐに持って出ることができず、一定期間(1か月くらいが多いでしょう。)ほど執行官が保管するということになります。家財道具の量や内容によっては、この費用が馬鹿にならない額、数十万円から百万円単位になることもあり、裁判所との関係では、とりあえず賃貸人がこの費用を納めなければなりません。もちろん、賃貸人には、このような執行費用も賃借人に請求する権利があるのですが、家賃も払えず、出て行く先も見つけられない人ですから、賃借人から現実に回収することは期待できません。といって、賃貸人が自分で無理矢理立ち退かせるなどというのは、「自力救済」といって、法律的には許されず、必ず裁判所を通じたこのような手続を踏まなければならないのです。
そこで、このようなケースに備えて、不動産賃貸借の実務では、賃借人に保証人をつけさせることが通例です。賃借人の身内や近しい人で、いざというときには賃借人に強く言える立場の方であれば、賃貸人の負担が大きくならないうちに(逆に言えば、保証人にとっても自分の負担が大きくならないうちに)賃借人に早く払えと言ったり、早く出て行くよう言ってもらうことも期待できます。
しかし、現実には、さほど親しいわけでも血縁があるわけでもないのに安易に保証人になってしまった人も多く、このような保証人は、賃借人への押しが効かないため、立退きがスピーディには進まず、滞納家賃がどんどん膨らみ、執行費用もかかることになるのです。いわゆる借金の保証と違って、保証契約時点では金額が決まっておらず、建物賃貸借では、契約期間が2年程度ということが多いでしょうし、家賃も月額ではそれほど多額ではないため、現実の負担がそれほど大きくなるとは想定せず甘くみてしまう(せいぜい家賃の何か月分程度)のだろうと思われます。しかし、上記のように、実際には執行費用だけで結構な金額となり、月額数万円程度のアパートでも、滞納分も含めて優に100万円を超えてしまうということもざらではないのです(200万円を超えたケースもありました。)。
賃貸人の側からは、まさにこういうときのための保証人ということですが、保証人の立場からは、予想外の金額に困惑してしまうわけです。
このように、不動産賃貸借の保証人は、契約時点では被担保債権額が定まっていない、いわゆる根保証であるところに特殊性があります。
そこで、今回の本題です。昨年8月に契約のルールを大幅に改める民法(債権法)改正の最終案(要綱仮案)が法制審議会の民法部会で大筋で了承され、本年2月の法制審の答申を経て、今通常国会に民法改正案が提出される方針で、おそらく今通常国会で成立する見込みです。改正目的は、①契約ルールの明確性、透明性を向上させて分かりやすい民法にする(確立した判例法理を明文化する、不明確な規定を見直す)、②制定以来120年弱の間の社会経済の変化に対応させる、③グローバル化に対応する、等で、消費者・中小企業の保護強化ということを謳い、その目玉の一つとして、保証人保護があります。
この点を不動産賃貸借に特化していうと、既に平成16年民法改正で、貸金債務等を個人が根保証する場合は極度額を定めなければ無効とされていたのですが、今回の要綱仮案によると、貸金債務だけでなく、賃貸借契約等の個人保証も極度額を定めたうえ、書面等にしなければ、その保証契約は無効とされる予定です。
極度額とは、元本、利息、損害賠償等を含めて保証人が負う可能性のある最大限度額のことで、確定した元本に対する遅延損害金が生じる場合は、その遅延損害金も含みます。個人保証人が負う負担の上限を保証契約時に示して保証人となるかを判断させるわけです。
保証人の立場からは、そういう規制も必要だろうと思いますが、さて、不動産賃貸借の実務としては、どのように運用されるのでしょうか?極度額の大きさに明文の規制はないので、なにがしかの具体的な額(場合によっては、賃料何か月分という書き方も考えられます。)を契約書上定めるとしても、どのようにすればよいのでしょうか?目安を考えるうえで、月額賃料というのが大きな要素となるでしょうから、これは、従前の規制対象であった貸金債務の個人保証の場面では想定されなかった悩みかもしれません。賃貸人の側からは極度額を出来るだけ大きい額にしたいでしょうし、賃貸借の立場の強弱から、賃貸人の言うがままに決まってしまいそうな気もします。もちろん、賃貸物件の賃料額等や保証人の資力などと比較して極端に大きい額にすると、公序良俗違反として無効とされるおそれがあるのですが、どの程度なら、というのは一概にいえないところです。上記のとおり、賃料を三つ以上溜めると当事者間の信頼関係を破壊したものとして賃貸借契約を解除できるとされることが裁判実務上多いことから、賃貸人も、賃料が三つ溜まったときは速やかに契約解除等の措置をとるとしても、実際に裁判に訴えて確定判決を得るまでにはそれなりに時間がかかります(賃料が三つ溜まってから更に半年や1年は十分あり得るところでしょう。)。さらに、賃貸借契約上賃借人が負うべき債務として、賃貸物件に通常の経年損耗以上の損害を与えた場合の原状回復債務等もあり得るので、これらの保証も視野に入れると、賃料基準としても、1年~2年分程度はあながち公序良俗違反とはいえないかもしれません。
また、保証契約時の賃料額を基準に考えても、その後の賃料の変動をどう見込むかの問題もあるでしょうし、賃貸借期間を短くするのなら、賃貸借契約更新に保証人を関与させなくてよいのかという問題もあるでしょう。
賃貸借の保証人保護のための新たな制度ですが、その実務運用は考えておかねばならないところが多そうです。
今後も、債権法改正の他の論点についても、実務運用がどうなるのかを検討していきたいと思います。
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