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弁護士ブログ

認定司法書士の簡裁訴訟代理権

2017.03.06|甲斐野 正行

この2月から3月の毎週土日に、日本司法書士協会主催の、「認定司法書士」研修の講師を務めて参りました。

「認定司法書士」というのは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、司法書士の中で、特に法務大臣の認定を受けた司法書士が、簡易裁判所管轄の民事事件で、弁護士と同様に代理人を務めることができる制度をいいます。

司法書士は、私たち弁護士の隣接業界ですが、司法試験に合格して司法修習を経た、いわゆる法曹ではなく、登記業務や裁判所・検察庁に提出する書類の作成等の代理やその限度での相談を行うのが本来的な業務です。ですから、司法書士は、弁護士のように裁判所での裁判の代理人になることはできないのですが、平成14年の司法書士法改正により、司法書士のうち、所定の研修を修了し、簡裁訴訟代理能力認定考査に合格して法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」は、「簡易裁判所」における「請求額が140万円までの民事事件」の限度で、民事訴訟の代理人を務めることができることになったのです。

ただし、司法書士は,上記のように、登記・書類作成を本来の業務とする資格で、「認定司法書士」といっても、複雑な法律案件を扱う能力まで担保されるわけではありませんから,特例として代理業務ができる範囲は,少額・簡易・定型的な簡裁事件の代理に限定しているのです。

 

私が担当したのは、各地方ブロックに分かれての研修の一端であり、要件事実論、事案による訴状、答弁書等の起案、模擬裁判等を行い、受講生の皆さんは、最初は慣れない様子でしたが、次第に慣れて熱心に受講しておられました。

この研修の後、6月に最終考査があるとのことであり、平日の通常業務をこなしながら(特に広島以外の中国4県から受講に来られる方々は)大変なご負担かと思いますが、最後まで完走して合格して戴きたいと思います。

 

それにしても、「認定司法書士」の簡裁訴訟代理権限は、代理権の範囲を、請求する権利の価額で画するところから、その価額をどう算定するかというテクニカルで、一般の方々には分かりにくい問題があり、そこから派生していろいろな問題が出てきますので、依頼者にとっては注意が必要です。

この権限の範囲を超える業務を行うことは、非弁活動(非弁護士活動)といって、違法な行為となりますし(罰則もあります)、次に述べますように、一旦依頼した事件を途中で司法書士から弁護士に替えるとなると不利益もあるからです。

 

「認定司法書士」でもできないこと

「認定司法書士」でも、以下の①~⑦の事件の相談・交渉・和解・代理をすることができません。もちろん、認定を受けていない司法書士は、140万円を超えない民事事件もできません。

① 140万円を超える民事事件(地方裁判所)

② 控訴審(高等裁判所・地方裁判所),上告審(最高裁判所・高等裁判所)

③ 破産・民事再生等の申立て(地方裁判所)

④ 強制執行(地方裁判所)

⑤ 家事事件(家庭裁判所)

⑥ 行政事件

⑦ 刑事事件

 

これが何を意味するかというと、140万円までの簡裁民事事件に限っても、一つの事件を最初(相談~簡裁での訴訟提起)から最後(控訴・上告~強制執行)までを「認定司法書士」が代理して行うことはできないということです。

簡裁の判決に対して控訴する場合はもちろん、簡裁の判決で確定しても、相手が任意に支払ってくれない場合に強制執行しようとすると、少額訴訟の債権執行以外は、認定司法書士は代理できません。また、簡裁での審理中でも、事案が複雑であるなどの理由で地裁での審理に移されること(移送といいます)があり、その場合には、やはり認定司法書士は代理をすることができなくなります。

途中の段階で改めて弁護士に依頼するというのでは、依頼者にとっては、費用も手間も嵩んでしまいますから、認定司法書士は受任時点でこの点をよく説明する必要がありますし、依頼者も知っておいた方がよいでしょう。

 

また、最高裁平成28628日判決・民集第7051306頁は,「認定司法書士が裁判外の和解について代理することができる範囲は,認定司法書士が業務を行う時点において,委任者や,受任者である認定司法書士との関係だけでなく,和解の交渉の相手方など第三者との関係でも,客観的かつ明確な基準によって決められるべきであり,認定司法書士が債務整理を依頼された場合においても,裁判外の和解が成立した時点で初めて判明するような,債務者が弁済計画の変更によって受ける経済的利益の額や,債権者が必ずしも容易には認識できない,債務整理の対象となる債権総額等の基準によって決められるべきではない。」としました。

訴訟の目的の価額は、訴えで主張する利益によって算定するとされ、その価額を算定することができないとき、又は極めて困難であるときは、その価額は140万円を超えるものとみなされます(民事訴訟法8条)から、受任時点で,客観的かつ明確な基準により140万円以下であると決められる必要があり、客観的に140万円以下であることが不明なものは,140万円以下の事案として扱うことはできないのではないかと思われます。

受任時点で、請求しようとする権利の価額が明確でないことはよくあることですので、この点も要注意です。

また、この140万円以下という制限をくぐり抜けようとして、本来は140万円を超える請求権があるのに、そのうちの140万円分だけを請求すること(一部請求といいます)があるのですが、これも(認定司法書士にとってではなく)依頼者にとって、そうする必要性とメリットがあることが前提です。例えば300万円の権利があるのに、敢えてこれを140万円の限度で分けて分割して請求するメリットが、依頼者にあるケースは通常ないように思われますし、かえって余計な費用や手間がかかるだけになるおそれが強いでしょう。ここは司法書士倫理にかかわることで、依頼者によくよく説明して、十分な理解を得て行うべきことで、懲戒等のトラブルになりかねませんし、依頼する側も、何故そんな手間をかけなければいけないのか、他に適切な手段がないのかを質問し、よく検討する必要がありますね。
                                 以 上 

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