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弁護士ブログ

「改正相続法施行⑤-1 配偶者居住権その1」

2020.05.19|甲斐野 正行

 

昨年6月20日~27日のブログでご紹介しましたが、2018年(平成30年)7月に,相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。

 

 日本は超高齢社会に突入し、社会や経済だけでなく、家族のあり方にも変化が生じており,今改正では,このような変化に対応するために,相続法に関するルールを大きく見直しています。 

 

 そのうち遺留分の見直しや特別の寄与制度などが昨年7月1日から施行されたのですが、今年4月1日に残されていた重要な制度が施行されました。 

 

 それが今回取り上げる「配偶者居住権制度」です。

 

  配偶者居住権は、自宅を所有する夫が死亡したときに妻が引き続き自宅に住み続けることができる法定の権利です。これは夫と妻の立場が逆であっても権利の内容は同じです。

  

 これまでの相続のルールでは、例えば、死亡した夫の遺産が自宅と僅かな預貯金しかないときに、法定相続分どおり遺産をきっちり分けようとすると、自宅を処分しお金に換えて分けることを余儀なくされ、残された妻の生活が不安定になる場合がありました。

  

 お母さんにそんな気の毒なことがないように円満に分ければいいように思うのですが、身内だからこそ、かえってそうはいかないことが珍しくなく、「争族」ともいわれる所以でもあります。

 

 そこで今改正では、残された配偶者の生活が安定するように配偶者居住権制度が創設されました。自宅の所有権と、配偶者の居住権を分けて相続することができるようにしたところがこの制度のミソです。

  

 また、この制度では遺産分割に当たって、配偶者居住権の財産としての評価額が重要となりますので、相続税評価の方法も定められ、建物の残りの耐用年数や配偶者の平均余命など、あとどれだけ自宅に住めるかをもとに計算することになりました。

 

 次のようなケースをみてみましょう。

 

 亡くなった夫の遺産が、自宅(評価額6000万円)のほかには、預貯金が200万円しかなく、法定相続人が、夫の所有する自宅に夫と一緒に住んでいた妻と、既に独立している娘の2人だけで、遺言がないという場合、妻と娘の法定相続分は各2分の1で、3100万円相当分ということになります。

 

 この場合、妻が自宅に住み続けるために自宅を丸々取得する形で遺産分割をしようとすると、娘に預貯金200万円を渡すほかに、妻は更に差額分2900万円を代償として娘に支払わなければならなくなります。

 

 これは妻がよほどへそくりでもしていないと、結局自宅を売らないといけない場合が多いでしょう。しかし、これでは何のために妻が自宅を取得するのか分からなくなりますよね。

 

 妻とすれば、自宅そのものを取得しなくても、自宅に住むことができればいいわけですから、配偶者居住権だけを自宅所有権と分けて相続することにします。

 

 配偶者居住権の評価額が、仮に自宅の評価額の半額の3000万円だすると、妻は、自宅の配偶者居住権(3000万円)と預金の2分の1(100万円)を取得し、娘は、自宅の所有権(価値は6000万円から配偶者居住権評価額3000万円を控除した残りの3000万円)と預金の2分の1(100万円)を取得するという形で遺産分割をすることで、妻は娘にお金を支払わずに夫死亡後も自宅に住むことができるわけです。

 

 もう一つ、配偶者居住権のメリットとして喧伝されているのが、二次相続も視野に入れた節税対策として有用ということです。

 

 配偶者居住権の存続期間は原則として妻が亡くなるまでなので、妻が死亡した場合(二次相続)には、配偶者居住権は誰にも承継されず当然に消滅します。すると、娘の持つ自宅の所有権は配偶者居住権の負担のないものとなり、娘が把握していた自宅の価値は増えることになるのですが、この負担のない所有権となることについて、現時点では、相続税や贈与税は発生しない取扱いとされています(下記の通達の注記)。

 

相続税基本通達9条13の2

 配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者と当該配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意若しくは当該配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合又は民法第1032条第4項((建物所有者による消滅の意思表示))の規定により消滅した場合において、当該建物の所有者又は当該建物の敷地の用に供される土地(土地の上に存する権利を含む。)の所有者(以下9条13の2において「建物等所有者」という。)が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、当該建物等所有者が、その消滅直前に、当該配偶者が有していた当該配偶者居住権の価額に相当する利益又は当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、当該配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。(令元課資210追加)

() 民法第1036((使用貸借及び賃貸借の規定の準用))において準用する同法第597条第1項及び第3項((期間満了及び借主の死亡による使用貸借の終了))並びに第616条の2((賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了))の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する。

 

  したがって、妻が死亡したときの二次相続の際には、娘は完全な自宅の所有権を税負担なく取得することができるのです。

 

 次回、もう少し配偶者居住権を見ていきます。

 

 

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