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「改正相続法施行⑤-3 配偶者居住権その3」

2020.06.11|甲斐野 正行

  

 前回・前々回に続いて配偶者居住権です。

 

 これまで述べてきました配偶者居住権は、実は、今次改正法が創設した配偶者居住権制度の片方でして、もう一つ配偶者短期居住権という制度があります(改正民法1037条~1041条)。

 

 これは、配偶者が,相続開始時に被相続人所有の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には,以下の期間,居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得する、というもので、配偶者居住権が成立しない場合又は居住建物の帰属が遺産分割により確定するまでの間に、短期間、配偶者の居住を保護するものです。

 

①居住建物が第三者に遺贈された場合や配偶者が相続放棄をした場合には、居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6か月経過する日まで

②配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは,遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日までの間(つまり,少なくとも相続開始時から6か月間は居住可能)

 

 今次改正前は、最判平成8.12.17民集50.10.2778が「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借関係が存続することになる」としていたことから、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合には,少なくとも遺産分割終了時まで相続人との間で使用貸借関係が存続する、と解されてきました。

 ただ、これでは第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や被相続人が反対の意思を表示していた場合には使用貸借が推認されず,配偶者の居住が保護されないという問題がありました。

 

 そこで、被相続人が居住建物を第三者に遺贈した場合や、反対の意思を表示した場合であっても,つまり、被相続人の意思にかかわらず、配偶者の居住を保護し、少なくとも最低6か月間は配偶者の居住が保護するというのが配偶者短期居住権です。

 

 被相続人が居住建物を第三者に遺贈していた場合は、配偶者はその第三者の意向次第ではそこを出なくてはならなくなりますが、その場合でもすぐに出て行けと言われても困る訳で、転居先を探すなどの準備期間が必要です。配偶者が相続放棄をする場合でも、その事情は変わらないでしょうから、短期居住権の限度で居住権を認めることとし、上記①のとおり、居住建物を遺贈や遺産分割で取得した者から短期居住権消滅の申入れを受けてから、つまり、出て行ってくれと言われてから6か月経過するまでは居住建物での居住を保障したということです。

 

 逆に、被相続人が配偶者に遺贈で配偶者居住権を設定していた場合は、始めから配偶者短期居住権より強力な権利が配偶者に設定されている訳ですから、その場合は配偶者短期居住権を認める必要はなく、配偶者短期居住権は成立しません。

 しかし、遺贈で居住建物が第三者に遺贈されておらず、また、配偶者居住権も設定されていない場合には、配偶者の居住関係がどうなるかは、遺産分割の行方次第で、それが定まるまでは不安定な立場に置かれます(そんなことがないように、生前の被相続人や、法定相続人が配慮していれば問題ない話ですが、それが期待できない場合もあるのが相続ということです)。

 そこで、上記②のとおり、居住建物が遺産分割の対象となり、配偶者が遺産分割の当事者となるときには、遺産分割により、居住建物を誰がどういう形で相続するかが決まるまでという限度で、配偶者が居住できることにした訳です。

 そして、遺産分割の中で配偶者が配偶者居住権を取得することが決まれば、その後は配偶者短期居住権ではなく、配偶者居住権に基づいて居住を続けることができることになりますし、そうでない場合は、それまでの間に転居先を見つけるなりの準備をしておくということになります。

 

 配偶者短期居住権は、無償で住むことができる権利ですから、用法や費用負担については、前回見たような配偶者居住権と同様の制限を受けますし、収益もできません。

 

 ただ、配偶者居住権は、上記のとおり暫定的なものであり、権利の価値はないものとして扱われます。遺産分割においても、相続税の算定においても、配偶者短期居住権は0円という扱いです。

 また、登記すれば第三者にも対抗できる配偶者居住権と異なり、登記は出来ませんし、第三者に対抗することもできません。

 そこで、配偶者が配偶者短期居住権を取得しても、例えば、第三者である受遺者が居住建物に勝手に抵当権をつけることは可能であり、抵当権者がその抵当権を実行し、配偶者が退去を余儀なくされることもあり得るということです。

 もっとも、短期居住権はもともと暫定的な権利ですし、抵当権を実行する場合には、実務上相当期間がかかりますから、配偶者の居住が不当に害されるということは少ないと思われますが。

 

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