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「ライフラインが止まった-災害に遭ったときの家賃」

2018.08.21|甲斐野 正行

今夏、広島を初めとして西日本では未曾有の豪雨災害がありました。今も苦しんでおられる被災者の方々には改めてお見舞い申し上げます。

ところで、日本ではこれまでも、阪神淡路大震災、東日本大震災を始め、このような大災害に何度も見舞われてきましたが、こうした天災に遭ったときの不動産賃貸借はいろいろ厄介な問題が出てきます。

賃貸マンションが物理的に壊れた場合は、修繕すれば住める程度なら、とりあえず大家さんには修繕義務がありますから、借家人は、大家さんの負担で修繕してくれるよう求めることになります(民法606条)。

大家さんがこれに対応してくれなければ、大家さんの債務不履行として、その損害賠償金と家賃を相殺して事実上家賃を減額するということも考えられますが、賠償額は最終的には裁判所が判断することになるので、当座は見込みで相殺するしかなく、下手に過大な賠償額を見込んで相殺すると、今度は借家人の家賃不払いにもなりかねず、慎重な判断が必要です。もう一つは、借家人が自分で修繕してその費用を大家さんに償還請求することが考えられますが(民法608条1項)、これも借家人が自腹でとりあえず支払える額かどうかによりますね。

こうした天災時は大家さん自身も被災者ということがあり得、大家さんとしても、修繕したくてもできない場合があるでしょうから、最終的には契約を解除して、お互いの義務(大家さんは修繕義務、借家人は家賃の支払義務)から解放されるのがよい場合もあるでしょう。

 

これは賃貸マンションが物理的に壊れて、大家さんに修繕義務が発生するケースですが、マンション自体の被害は大したことはなくて、住むこと自体はできるものの、電気・水道・ガスといったライフラインの供給が止まってしまったという場合はどうでしょう。

この場合、ライフライン自体は大家さんが修繕すべきものではありませんから、借家人から大家さんの修繕請求やその義務違反による損害賠償請求ということは無理があります。

他方、住むことはできるわけですから、借家人には家賃の支払義務は残ります。

ただ、マンションの賃貸借契約は日常生活の本拠となる住居を提供することを目的としているはずで、ライフラインが止まっては、現代生活として、食事・入浴・用便・就寝といった日常生活を正常に行うことが困難であり、賃貸借契約が目的としたマンションの使用収益は大幅に制限される状態になったと言わざるを得ないでしょう。

ライフラインが利用できる物件であることが賃貸借契約の前提になっているはずですから、そのリスクを賃貸人・賃借人でどのように分配調整するかが考えられてしかるべきです。

こうした場合の手段として、借地借家法の賃料減額請求が考えられますが、これは経済情勢の変動や近傍の賃料相場等に照らして賃料額が不相当になったときに将来に向けて相当期間にわたり賃料を減額することを予定しており、裁判の前に調停をしなければいけない、かなり重いシステムです。ところが、ライフラインの制限は通常一時的・短期的なもので、漸次的に回復していくことが想定されますから、そうした短期間での賃料の調整には使い勝手が悪いといえます。

もう一つ、「現」民法611条が、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。」と定めているので、これを使えないか?と思うのですが、マンション自体が物理的に損壊しているわけではなく、単にライフラインがストップしているケースで「賃借物の一部が‥滅失した」といえるか、という疑問があり、そこで弥縫的な解決策として、危険負担の考え方を用いて、ライフラインの復旧段階に応じて段階的に当然に減額されるとした裁判例もあったところです(神戸地判平成10年9月24日は、「賃貸借契約は、賃料の支払と賃借物件の使用収益とを対価関係とするものであり、賃借物件が滅失に至らなくても、客観的にみてその使用収益が一部ないし全部できなくなったときには、公平の原則により双務契約上の危険負担に関する一般原則である民法五三六条一項を類推適用して、当該使用不能状態が発生したときから賃料の支払義務を免れると解するのが相当である。」としています。)。

こうした問題があったことから、2020年4月1日から施行される「改正」民法611条1項は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と定められました。「現」民法611条1項との違いは、「滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなったとき」を要件としたことで、これであれば、物件の物理的な損壊以外の理由で使用収益が制限されたときの短期的な割合的解決を図る明文の根拠ができたといえます(改正民法の施行までは、裁判では上記神戸地判のような危険負担という理屈で処理することになるのかもしれませんが、中身は同じことです。)。

もちろん、具体的な減額割合はケースバイケースで、一律に判断できるものではないのですが、こうした災害時は大家さん・賃借人双方とも被災者というのが通常でしょうから、互譲の精神で、当事者間の協議により円満な解決が図れれば、と思います。

以 上

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