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「エースをねらえ」

2018.09.13|甲斐野 正行

「やれあついとか寒いとか 不利なコールがあったとか バカバカしい 完璧な条件でプレイできることなど一生に何度もないわ 技があってもそれにみあう精神力がなければ駄目よ ラケットを折るなんてもってのほかだわ! コートに立つ前にまずその根性をたたきなおすべきね ゆるせないわ テニスを愛するものとして・・・」

 

今月9日、大坂なおみさんが全米オープンで見事優勝を遂げられました。

一時代を画したセリーナ・ウィリアムズ選手をストレートで破っての優勝で、内容的にも圧倒的であり、新しい時代が幕を開けた観があります。以前は自分をコントロールできずに自滅することが多かったように思いますが、今大会では大変自制的に見え、短期間での成長ぶりには驚嘆します。カープの若手投手にも強い自己制御を期待したいところです。

 

とはいえ、この決勝戦の話題は、ウィリアムズ選手の試合中のコーチング禁止違反やコートマナーへのペナルティと、それに対するウィリアムズ選手の抗議、地元観衆の表彰式まで続くブーイング、さらに全米テニス協会会長の表彰式での配慮を欠いた発言、そして、その中で大坂選手の見せた涙と健気な謝罪?が大きくクローズアップされました。

日本のマスメディアは、あまりこの詳細についてきちんと報道しないのですが、もともとウィリアムズ選手は、テニス界では女子プレイヤーが男子プレイヤーに比べて差別的な扱いをされているという発言をしていて、この試合に関しては、男子選手であれば、このようなコーチングや暴言程度でペナルティは課されないのに、自分にペナルティを課すのはおかしい、という主張のようです。

これについては賛否あるようで、擁護論もある一方、彼女こそ女子テニス界のレジェンドであり、女性権の闘士というべきナブラチロワさんは、ニューヨークポスト紙で「セリーナ・ウィリアムズはある部分では正しい。素行不良がいかに罰せられるのかについては、大きなダブルスタンダードが存在する」が、「男子が見逃されているのだから、女子だって見逃されるべきだ、という考えは賢くない」「我々は自問自答すべき。我々の競技を尊重し、対戦相手に敬意を払うための正しい流儀は何なのか、ということを」と述べています。

少なくとも試合は同じ女性同士で行われており、大坂選手への裁定とウィリアムズ選手への裁定が異なるというのであればアンフェアなダブスタというのは当然ですが、男子は見逃されているから、というのは、事、この試合に関するクレームとしては個人的には違和感があります。ルールにある以上、1つの試合の中での、主審の裁量の範囲内の問題、野球で言えば、主審のストライクゾーンの広狭のようなもので、狭めのゾーンだとしても、戦っている両チームに平等にとっている限りアンフェアとは言えないのではないか、ということです。

また、より理念的には、ウィリアムズ選手のクレームは、我が国でスピード違反取締りにかかったドライバーがよくいう不満みたいなものになりかねず、その意味でナブラチロワさんの指摘は論理的で女性権向上を推し進める上でも適切な考え方のように思われました。

 

ただまあ、主審への暴言については、少なくとも男子のトッププレイヤーは昔から酷いものがありました。ルーマニアのナスターゼ、アメリカのコナーズやマッケンローといった名選手がその典型で、ある意味強い選手ほどマナーが悪いという印象がありましたが、それでペナルティをとられたのか?というと、それはなかったように思われ、コートマナーについてのペナルティはかなり甘いのかもしれません。野球やサッカーにおける、審判への言動に対するペナルティの取り方や強さと比べると、テニスの有り様は特殊なようにも思えます。

もし、ナブラチロワさんも指摘するように、マナー違反について男子選手ではペナルティを課さないのに、女子選手には課すとすると、その面でのダブスタはやはり問題でしょうし、構造的な問題があるのでしょうか。

 

その昔、山本鈴美香さんの漫画「エースをねらえ」で、岡ひろみとの試合中、主審の不利な裁定に激高し主審にくってかかり、挙げ句、試合放棄した相手選手について、お蝶夫人(高校生ですが)こと竜崎麗香が、冒頭のように気高く仰っており、読んだ当時中学生か高校生の私はいたく感銘を受けたのですが、現実のテニス界はそうではありませんでした。むしろ、ナスターゼが「私は怒りの感情がある限り、良いプレーができる。良いプレーができれば、誰にでも勝てる。私は怒りの感情を持てるから幸せなのだ」と言っているように、国際的なトッププロの世界では、怒りや勝利への執着心をストレートに出す選手の方が突き抜けることができる側面があるのかもしれません。

実際に、スポーツを求道的にとらえ、また、用具を大事に扱う日本的なメンタリティは、これまで少なくとも欧米発祥の競技では必ずしも国際的な勝利という結果には結びつくとはいえなかったのですが、ナブラチロワさんのいうように、対戦相手への敬意というとらえ方は洋の東西を問わず、そのスポーツ自体の価値を維持し高める上で重要な視点でしょう。

今大会では、ウィリアムズ選手が優勝すれば、コート夫人の4大大会通算24勝に並ぶという節目であること、出産からの復帰の4大大会であることから、地元で大きな期待をかけていたという背景もあって、大坂選手への配慮や敬意を欠いた面があるように思われますが、テニスという競技の発展の上で、アメリカに限らず、観る側の成熟も望まれるところです。

以上

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