悪質クレーム(不当要求)と民事不介入の原則 ①
2021.09.07|中井 克洋
1 悪質クレームに対する警察の対応の話題
最近のテレビでは、コロナ禍でみんなストレスがたまっているので、病院やスーパー、コンビニなどで、一般人によるかなりひどい悪質クレーム行為が横行している、という話題がとりあげられることが多くなったように思います。またカスタマーハラスメント、モンスタークレーマー、モンスターペイシェントなどの言葉も日常用語になったようです。
例えば、コンビニや病院の窓口で、客や患者が代金や医療費を返せといって、大声を出したり、何時間も居座った、というようなケースです。
その話題のときに、
・店長や院長が警察を呼んだが、警察官は一旦来たものの「民事には介入できない」と言って帰り、店長や院長はしかたなくお金を払った。
・警察は何をしているのか
と警察が批判されることがあります。
いわゆる「民事不介入の原則」とはなにか、という問題です。
2 民事不介入の原則とは
私は活動報告やブログで紹介していますように、暴力団や反社会的勢力による民事介入暴力対策だけでなく、それ以外の一般人によるものでも悪質クレーム(不当要求)対策に関する活動をしてきました。
その活動のなかで、警察が悪質クレーム(不当要求)に対して、どのような場面でどのような対応ができるのか、ということについて長年関心をもってきました。
平成10年代の初め頃、占有屋という悪質な無許可貸金業者が横行しました。それは、お金を貸すときに、借りる人に「期限までにお金を返せなければ、住んでいる住居を明け渡す。動産も処分してよい。」という内容の念書を書かせた上で、実際にお金を返さなければ、むりやり鍵を替えてその住居に入り込んでしまったり、家財道具を売り払う、という手口です。このような手口に対して、警察を呼んでも、当初、業者から念書をみせられた警察官は「民事には介入できない」という理由で帰り、被害救済されないことが社会的に問題になりました。
そこで、平成12年8月2日に東京で開催された日弁連民事介入暴力対策大会(以下、民事介入暴力を通称の「民暴」、日弁連や広島の民事介入暴力対策を講じる委員会のことを「民暴委員会」、日弁連の開催する民事介入暴力対策大会のことを「民暴大会」といいます)において、日弁連民暴委員会と警察庁とで占有者対策を協議、検討した結果、
①いかに念書があったとしても、法の適正手続をとらずに自分の要求を強引な方法で実現すること(自力執行)は法の支配の否定である。
② 警察が民事事件に一切、介入できないという考え方は妥当でない。
③ 法的手続も経ていないのに強引に人の家に入り込む占有屋に対しては住居侵入罪で逮捕できるし、入り込もうとする占有屋に対して最低限、警察は現場引き分けができる。
ということを確認し、実際に警察が占有屋を排除していきました。その結果、占有屋が横行することはなくなりました。
次回へ続く