「AIが犯罪予測?」
2018.01.29|甲斐野 正行
今日(2018年1月29日)の中国新聞で、神奈川県警が人工知能(AI)を使った取締りの新システム導入を検討しているという記事に接しました。
SFや映画好きの人なら、「おっ、マイノリティレポート!」と思いますよね。
「マイノリティレポート」は、2002年にトム・クルーズ主演で映画化されましたが、プリコグと呼ばれる3人の予知能力者を機械の一部のようにして構成した殺人予知システムに従って予防的治安維持が行われ、システムの導入以後殺人事件発生率が0になったという、西暦2054年のワシントンD.C.を舞台にした作品です。原作はフィリップ・K・ディックで、ハリソン・フォードの「ブレードランナー」やアーノルド・シュワルツェネッガーの「トータル・リコール」もこの人の短編小説を原作にしていますが、この人の作品はよほど映画人の想像をかき立てるものがあるのでしょう。
神奈川県警が検討しているやつは、もちろん予知能力者ではなく、大量のデータを基に自ら学習する「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる手法を採用して、人工知能に犯罪学や統計学の数式を学ばせ、過去に事件事故が起きた場所や時間、気象条件や地形などさまざまなデータを取り込むそうです。これによって、連続発生した事件の容疑者が同一かどうかを分析したり、容疑者の次の行動を予測したりするほか、事件事故が起きやすい時間帯と場所を確率で示すシステムを構築して、予測された時間帯や場所をパトロールの順路に組み込むなどし治安向上や迅速な対応につなげることを考えています。
ディープラーニングは、囲碁や将棋のソフトに採用されて、ついにプロ棋士を凌駕するまでになったことでも注目されました。つい何年か前までは、コンピュータがプロ棋士に追いつくのはかなり未来のことと思われていたのが、瞬く間にプロ棋士を追い越した感がありますから、犯罪予測もあっという間に進化するかもしれません。
既に米国のいくつかの州やドイツでは試験的に行われていて、相当な成果を上げているそうです。
もちろん、人間の警察官が不要になるわけではなく、人間の警官はこのシステムの予測から学んで、更に効率的に警備や捜査ができるということです。
悲惨な事件で犯罪被害者やご家族の悲嘆を目の当たりにすることが多い仕事柄、これで犯罪被害が減ったり、検挙が速やかに行われれば、と期待してしまいます。
防犯カメラも、当初はプライバシーや肖像権との関係でいろいろ批判があったところですが、人間関係の希薄な都市社会や、人目のない場所の夜間の犯罪などでは、犯人検挙のために防犯カメラの映像が極めて重要な働きをする場面が多く、長時間の撮影が可能になり、解像度が向上するなどして、最近は防犯カメラの必要性・有用性は否定しがたくなっているところです。
このAIによる犯罪予測システムは、「マイノリティレポート」のように、特定の人物を狙い撃ちにする、恣意的な運用が許されないことは当然ですが、とりあえずは、前提となるデータの取り方が個人情報保護法やプライバシー権との関係で問題になるかもしれません。
個人情報保護法は、個人情報を守る一方で、特定の人と分からないように加工した個人情報(匿名加工情報)を第三者に提供してビッグデータとし、これをビジネス活用することを想定しているのですが、犯罪予測では、情報として、その地域の過去に犯罪を犯した人や被害にあった人の居住の有無やその犯罪・処罰の内容、加害者と被害者との関係などが精度を高める上で不可欠となるように思われます。このような情報は、特定の人物であることが分からないと意味がない場合があるように思われますし、出所した人や被害者の私生活をどこまで監視補足していくのか(していかないと、有意義な情報がとれない)、という問題もあり、犯罪予測レベルの段階で、警察が外部からどのようにしてそうした情報をとるのか?、個人情報保護法が想定している場面(23条1号の法令に基づく場合、2号の人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき)に当たるか?という気がします。
欧米では、出所者や性犯罪者の追跡補足が法的に許容されるところもあるので、もしかしたら、米国やドイツの試験的運用で成果があがっているのは、そうした法的な整備が前提になっているのかもしれません。