「差別-インディアンスのチームロゴ廃止」
2018.01.30|甲斐野 正行
昨日(1月29日)、MLBのコミッショナーとクリーブランド・インディアンス球団は、来季の同球団のユニホームから、先住民族を模したチームキャラクター「ワフー首長」のロゴを取り除くと発表しました。これです(EPA=時事)。
クリーブランド球団は、アメリカンリーグ発足当時からある歴史の古い球団ですが、長い低迷時代を抜けて、90年代に黄金時代を迎え、21世紀に入ってからも、それなりに成績を残すようになって、2016年はリーグ優勝を果たし、2017年も地区優勝を遂げています。低迷時代の弱さをネタにして作られた映画「メジャーリーグ」のヒットで、MLBファン以外でもご存じの方が多いと思います。
このチームロゴは、赤い肌、頭に羽根を付けた先住民族の長を図案化したものですし、チーム名もインディアンスですから、モロにアメリカ先住民族を連想させるものです。
もっとも、このチーム名はルイス・ソカレキスというアメリカ先住民族初のメジャーリーガーに敬意を払ってつけられたもの、と言われており、ソカレキスの愛称が「チーフ」、つまり、先住民族の長でしたから、必ずしも悪意でつけた名称やロゴではないように思われますが、そうした善意悪意では片付かないのが差別の問題です。
昨年大晦日の「ガキ使」でも浜田雅功さんが黒塗りをしたことで、黒人差別を助長するものとして非難がありましたが、黒人でない者が顔や肌を黒く塗って黒人を装う舞台化粧や演目は「ブラックフェイス」といって、欧米では古くからあります。文化史的には興味深いところも多いのですが、欧米では、差別意識の変化に伴い、今やブラックフェイスは、人種的なステレオタイプを社会に植え付け、差別を助長するものとして、禁忌されるようになりました。
リアルタイムで「ガキ使」を見たときには、今や外国でも人気番組として見られているのに危ないなあ、と思うとともに、「ガキ使」のプロデューサー達は、黒人のステレオタイプとしての黒塗りではなく、テーマのアメリカンポリスの繋がりで、あくまでエディ・マーフィをイメージしたものだから大丈夫という認識なのかなあ、と思いました。
しかし、こうした特定の人種を連想させる装いや図案等は、それを施した意図や認識を超えて、特定の人種の「負」のステレオタイプを象徴するものとして社会で認識され、扱われるおそれがあり、それをあえて使うことは人種差別への意識が低いと見られるのです。特に黒人の場合は、米国での、公民権運動等の長く苦しい人種差別との戦いの中で勝ち取ってきた歴史がありますから、尚更敏感になるのでしょう。そういえば、カルピスのロゴもやり玉にあがって、変更したということがあり、これについては当時賛否があったと記憶しています。
アメリカ先住民は、人口が少なくなってしまったこともあってか、ある意味、黒人よりも社会的に劣悪な状況にあると言われており、そうした彼らは、インディアンスのロゴも自分たちの負のステレオタイプを植え付けるものと認識して、これに長らく抗議し、MLBのコミッショナーもこのロゴの使用中止をクリーブランド球団に勧めてきた結果、同球団がようやく受け容れたものだそうです。
日本人は余り文句を言わない感じですけど、日本人の特に男性については、つり目、出っ歯、低身長、めがね、カメラを首にぶら下げている、というようなイメージで語られたり、戯画化されることが欧米ではあるようです。
昨年のワールドシリーズで、ダルビッシュ投手に対して、元横浜のグリエル選手がホームランを打った後、ベンチでつり目ジェスチャーをしたということで、大きな非難がなされ、場合によっては、制裁として次年度の出場停止もあり得るという話もありましたが、欧米では、こうしたことには非常に敏感だということは認識しておく必要があります。
もちろん、これは欧米では人種差別がないことを意味するのではなく、それがなお厳しい状況であるからこそ、でしょうが、日本は、経済的にも文化的にも、今や世界と深くつながっており、その影響力も自分で思う以上に大きいのですから、その立ち居振る舞いも注意する必要があるということです。