「特殊詐欺~被害者の心を深く傷つける犯罪~⑤」
2018.10.02|中井 克洋
ところで、特殊詐欺に使われる犯罪ツールは固定電話の転送システムと私設私書箱です。
以前、ヤミ金の事件で携帯電話の本人確認が不十分なことを利用されて犯罪ツールとしてかなり利用されましたが、その後、携帯電話不正利用防止法によって本人確認が厳しくなって、携帯電話で直接電話してくる手口は少なくなりました。
それに代わって、携帯電話でいったん固定電話に電話をかけて、それを何回も転送させて、携帯電話からかけていることをわからないようにしているようです。しかも固定電話の転送システムはいろいろ複雑なところがあって、最初の携帯電話のところまでたどりついて、その名義人をつきとめるのが容易ではありません。そのため残念ながら、現在、特殊詐欺は犯人たち、特に「首魁」や「架け子」にとってはローリスクになっているようです。
特殊詐欺を防止するためには、犯人たちにとってハイリスクなものにしなければなりません。ハイリスクとは、犯人が捕まりやすく、捕まえたときには厳罰を与えることを意味しますが、そのためには固定電話や携帯電話の利用者がすぐにわかるようにすることが必要です。現在、総務省において、その検討が行われています。
次に、私設私書箱もかなり特殊詐欺に悪用されていることが判明しています。
被害者が銀行でお金を振り込むときに振込金額が制限されていることや、銀行窓口での積極的な注意が行われるので、最近は、現金やプリペイドカードを宅急便や郵便により送らせるという手口が多いようです。その送付先として利用されるのが私設私書箱です。
アメリカでは送付先として、私設私書箱であることが明示されなければ、郵便物や宅急便が配達されないようになっているようですが、日本ではその明示は不要とされています。そのため本当は私設私書箱しかないのに、宛先が会社名で住所も東京の住所であれば、まともな会社がそこにあるのだろうと誤解してしまいます。したがって、この私設私書箱に対する規制も考えなければなりません。
警察、銀行、コンビニ、宅配業者などみんなが特殊詐欺をふせぐためにかなりの対策を講じてきましたが、それでも毎年400億円前後の被害が出ていることからすると、さらに踏み込んだ対策が必要なのです。
さらに防止だけでなく、犯罪で取られたお金を取り返すことも本当に必要です。犯人をつかまえれば少しでも刑を軽くしたいと思って被害弁償してくることもあります。被害弁償しない犯人たちについてはどこかに財産を隠している可能性が高いので、出所後の行動をつかむようにできる制度も必要かもしれません。
私は日弁連民暴委員会に所属しており、同委員会ではこの10月4日に青森市で開催される日弁連人権擁護大会シンポジウム第2分科会において、「組織犯罪からの被害回復~特殊詐欺事犯の違法収益を被害者の手に」をテーマとして、特殊詐欺の手口と現状の対策を整理したうえで、現状の対策では不十分なところがあれば可能であれば提言をする予定です。
https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/organization/event/jinken_taikai/gyoji_jinken2018.html
10月4日のシンポジウムはどなたでも参加可能ですので、可能な方はぜひ、いらっしゃってください。
以 上