「民事裁判のIT化ーいよいよ今日からフェーズ1」
2020.02.03|甲斐野 正行
これまで、このブログで民事裁判手続のIT化について何度か触れてきましたが、いよいよ今日からその一部の前倒し的運用である「フェーズ1」が始まります。
最高裁は、昨年6月、民事訴訟手続のIT化においてウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の新しい運用を開始することを発表していましたが、その第一段階として、今日から、知的財産高等裁判所の他、東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松の各高裁所在地の地方裁判所本庁で運用を開始します。
続いて、5月頃から横浜、さいたま、千葉、京都、神戸の各地裁本庁でも運用を開始し、更にその後順次拡大していく予定です。
以前のブログで触れましたように、民事裁判のIT化は、訴訟提起のオンライン化等の「e提出」、主張・証拠への随時オンラインアクセス等の「e事件管理」、民事訴訟手続の全体を通じて、当事者の一方又は双方によるテレビ会議やウェブ会議の活用等の「e法廷」の「3つのe」を内容としますが、「e提出」と「e事件管理」は法改正が必要で、まだ検討すべき事項が多く、裁判所も含めて体制作りができていませんので、これからもう少し時間をかけることになります。
しかし、「e法廷」については、現行法のもとでも出来るところがあるので、これを裁判所が弁護士会及び弁護士と協力しながら、運用として前倒しでやってみるということで、これが「フェーズ1」です。
「e法廷」の実施には、裁判所と弁護士事務所を結ぶソフトウェアが必須ですが、これはマイクロソフト社の「Microsoft Teams」が使用されます。
今後、法改正がされれば、それに基づく弁論・争点整理等の運用が「フェーズ2」として、更にその後体制作りが十分に出来れば、オンラインでの申立等の運用が「フェーズ3」として予定されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/dai7/siryou4.pdf
「フェーズ1」はあくまで現行法が前提となる運用の工夫ですので、訴訟提起はこれまでどおりですし、準備書面や証拠、裁判記録等も紙媒体のまま、口頭弁論期日も必要的に行われます。
これまでは少なくとも一方当事者が裁判所に出頭しないと開けなかった手続を、双方不出頭でも行えるようにするというのは、当事者的には大変負担が軽くなるというメリットがあります。
「フェーズ1」は上記のとおり一定の大きな裁判所で試行されるものではありますが、当事者の出頭の負担軽減という意味では、むしろ交通の便が悪い支部等でこそメリットがあるといえます。そこで、支部等の裁判官によっては、フェース1対象の裁判所ではないため、ウェブ会議システムやテレビ会議システムこそ使えませんが、電話会議システムを使って、双方不出頭でも争点整理が行えるよう、書面による準備手続を活用した柔軟な運用をするケースが増えています。
当事者の出頭というのは、裁判の理念としては重要ではあるのですが、これにこだわるとどうしても利用者目線では、裁判という手続は大変使い勝手が悪いということになってしまいます。
柔軟な運用がおおっぴらに出来るようになり、裁判手続の使い勝手がよくなるのは、IT化の大きな功績になるかと思います。