悪質クレーム(不当要求)と民事不介入の原則 ③
2021.09.22|中井 克洋
これは当時の広島民暴委員会副委員長の弁護士福永孝先生が中心となり、元最高裁裁判官で東北大学名誉教授の藤田宙靖先生や警察行政法について深く研究されておられる北海道大学大学院法学研究科教授(当時は准教授)の米田雅宏先生のものをはじめとして多数の論文を検討し、米田先生や警察庁の人にもご意見をいただいた広島民暴大会の検討結果を本にまとめたものです。
興味のある人はその本を読んでいただければと思いますが、要約すると以下のようなことが私たちの検討結果です。
・そもそも「民事不介入」という言葉は、かつて警察が債権の取立まがいのことを行ったり、債権者の依頼を受けて警察の権限をちらつかせて支払を強要したりすることがあったことへの反省から、私権の実現は原則として司法手続により実現させなければならないということを意味するにすぎない。言い換えると、警察が、原則として私権の実現に介入できないということを意味する限りにおいて「民事不介入の原則」は現時点においても妥当する。
・しかし私権(個人の財産権)が現実に法の手続もとらずに侵害されようとしている、具体的には不当要求や違法な自力救済が行われているのを警察が止めようとする場面においては、民事不介入の原則がはたらく余地はなく、不当要求行為や自力救済行為に対し、要件を充足すれば、警察法2条1項にもとづく公共の安全と秩序の維持のための任意活動や警職法5条における介入(警告、制止)ができる。
(参考)
警察法第2条
1 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。
警職法第5条
警察官は犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受けるおそれがあって、急を要する場合においては、その行為を制止することができる。
あらためて、民暴委員会がこれまで検討した「民事不介入の原則」に照らして、民事事案に警察がどのように介入できるかをまとめますと、
・平成12年の民暴大会では、民事上の紛争の場面でもその行為が刑事事件に該当する場合には、警察は刑事事件として扱ってよい場合がある。
・平成23年の民暴大会では、私権(個人の財産権)が侵害されようとしている、具体的には不当要求や違法な自力救済が行われようとする場面においては、警察において、任意活動はもちろん、警告や制止ができる場合がある。
ということが確認されているということなります。
次回へ続く