「さいとう・たかを先生安らかに(T_T)」
2021.09.30|甲斐野 正行
さいとう・たかを先生が今月24日にすい臓がんで亡くなられたことが昨日報道されました。
お身体が必ずしも良くないということは存じ上げていましたし、ご年齢がご年齢(84歳)でしたので、気にはしていたのですが、連載は続いていたので、何となく大丈夫なのかなと思っていました。
劇画界の巨星堕つで、とても残念です。
漫画家の方は、特に週刊連載を持つとほとんど眠る時間もない日常が続き、文字通り生命を削る生活であるためか、平均寿命よりも早くに亡くなられる方が多いという印象(手塚先生も藤子F先生も60代で亡くなられています)を勝手に抱いています。しかも、どうしたって創造力は年齢とともに衰えていくものですから、中高年以降も人気作品を生み出し続けるのは至難の業で、実際にも稀です。その意味では84歳まで、しかも、現役で作品を掲載し続けておられたのは感嘆するばかりです。
さいとう先生の業績としては、ゴルゴ13などの個々の作品だけでなく、「劇画」というジャンルを切り開いたことと、工房システムを構築されたことが特筆されます。
特に工房システムは、個人としての漫画家の能力には限界があることを素直に認めて、漫画作画における分業体制や脚本部門を置いたもので、これによって安定的・継続的な漫画制作を実現したわけです。掲載作品には、スタッフや脚本家の名前もクレジットされており、工房でのスタッフの地位に相当配慮していることがうかがわれます。
一般の漫画家でも、作画にはアシスタントを使いますし、ネーム(漫画のコマ割り、コマごとの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに表した漫画の設計図的なもの)には担当編集者が大きく関わっていることも多く、その意味での分業をしているのですが、担当編集者の役割は不明確で表には出ませんし、アシスタントの名前もこれを作品にクレジットするかどうかは漫画家さんによります。これをシステムとして構築し、スタッフの役割を明確にして保障したことが重要で、これにより優秀な作画スタッフを確保できますし、ストーリーについても、おおっぴらに外部に脚本を依頼して、面白い話を継続的にあげることができるわけです。
特にゴルゴ13は時事ネタや世界情勢と不可分で、鵜呑みにはしないまでも、こんなことが世界ではあるのか、と気付かされることも多いですから、脚本がとても重要で、個人ではとてもこんなにアップデートし、かつ、範囲を広げていくことは不可能だったでしょう。
JFKの暗殺(1963年)の犯人と疑われたこともあるなど、冷戦のころからいっぱしのスナイパーとして活動していたわけですので、ゴルゴは今何歳なのかとか、既に何代目かに変わっているとか言われるほどですが、そこはサザエさんやコナン君的に脳内補正をするのが読み手のあり方です。
さいとう先生自身、ゴルゴ13は、すぐにネタがなくなるだろうから10話程度で終わるつもりだったそうですが、それが今年7月に「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定されるほど人気を得て長続きしたのは、この工房システムがあってこそでしょう。
ゴルゴ13は、最初の頃はよくしゃべっていたのですが、そのうち、ほんの二言、三言しかしゃべらないようになっていました。これは謎めいた主人公のキャラクターを表すというだけでなく、そうすることで、誰がネームを書いても主人公のキャラクターにブレがないようにするという意味もあったのではないか、と推察します。
登場する女性が豊満なことが多いことや、ダサい下着ばかりなのは、先生の嗜好があったようで、特にダサい下着を描くのは絵描き的には辛いのではないかとも思うのですが、これはこれで作画スタッフに一貫させることでブレをなくすということかもしれません。
心残りなのは、さいとう先生が最終回やルーツ編(ゴルゴは何人なのかやその生い立ちを探るパターンのもの)の決定版を描かれずに亡くなられたことです。
最終回のプロットはお考えになっていたそうですが、それを話していた幹部スタッフは先に亡くなられていますし、時代の流れの中で先生の頭の中でのプロットも変わってきたと思われますから、これを知る現役スタッフはいないのではないかと思われます。
しかし、先生としては、自分がいなくても続けられる体制を作っているのだから、後はスタッフに任せたということかと思います。
ここは、某「ガ○スの仮面」とは違うところで、○内先生にはそろそろケジメをつけて頂きたいと改めて思うファンも多いのではないでしょうか?
さいとう先生には長く楽しませて頂きましたことをお礼申し上げると共に、ご冥福をお祈り申し上げます。