高次脳機能障害とは
広島メープル法律事務所の取り組み
私たちは、これまで数えきれないほどの交通事故等被害者側の高次脳機能障害事案を取り扱ってきました。また裁判や示談の場で正当な補償を求めるだけでなく、NPO法人高次脳機能障害サポートネットひろしまやNPO法人日本高次脳機能障害友の会の活動に参加協力して、当事者の社会復帰に向けた活動、社会への啓蒙、相談会、講演会の実施などによって、行政機関、病院その他の関係各機関に保護や理解の拡大を求めてきました。 その蓄積されたノウハウをもって、今後も高次脳機能障害で苦しむ人たちのため、力を尽くして参ります。
NPO法人高次脳機能障害サポートネットひろしまより「事故に遭ったら~高次脳機能障害の問題点を中心に」という冊子を平成26年5月に発刊し、当事務所のメンバーも執筆を担当しました。損害賠償請求だけでなく、年金や福祉サービスの利用など高次脳機能障害になった当事者、ご家族がいつ何をすればよいか、を簡単にまとめていますので、是非、当事務所かNPO法人高次脳機能障害サポートネットひろしままでお問い合わせ下さい。
高次脳機能障害とは
簡単にいうと、事故などによって、大脳に目に見えないけれども小さな傷が残ってしまい、それまでの被害者とは何かが違った状態になったときのその障害のことをいいます。
例えばこんな症状があります
事故によって頭部を打ったり、麻酔や溺水によって脳に酸素がいきわたらなくなったりした後、認知能力や記憶能力が低下したり(認知障害、記憶障害)、うっかりミスが多くなったり(注意障害)、仕事の段取りができなくなったりすること(遂行機能障害)があります。また、人格的には、それまで穏やかだった人が怒りっぽくなったり、逆にそれまで非常に活発だった人が引きこもりになったりすることもあります(人格変化)。しかも自分に自覚がなかったり、あるいは事実を認めたがらないため、病院に行ってもらうことも苦労することがあります。
ほかの後遺症に比べると気づきにくい点に特徴があります
ふつう事故にあった場合、最初は命を取り留めたことで家族もほっとし、病院を退院します。そして退院から時間があまりたっていない段階では、元の被害者とは何かが違っても、事故のショックが残っているくらいにとらえて、そのうち治るだろうと考えます。しかし職場や学校に復帰して時間がたっても元のようにならず、むしろ前にできていたことができなくなったことにショックを受けてしまいます。ただし、ちょっとした会話や単純な作業が短時間ならできることも多いことから、その人と長時間一緒にいる人でないと、その異常には気づきません。
高次脳機能障害の患者の人はこのようなケースが多いのです。
高次脳機能障害と認定されるために
前述したような症状が出ている患者が、必ず、高次脳機能障害として認定されるかというとそうではありません。現時点で、自賠責保険などで高次脳機能障害と認められるためには、ここに述べたような、認知障害、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、人格変化などが認められるだけでは不十分であり、そのほかに、以下のような医証(医療上の証拠)が重要な要素になります。
- 認定要素.1
- 事故当初に、重症の意識障害が6時間以上続くか、
もしくは軽症の意識障害(例えば、意識はあるがいまひとつはっきりしない状態)が1週間程度続くこと(高齢者などではこの期間が短くてもよい)
- 認定要素.2
- 事故から落ち着いた時点(慢性期)で、脳の画像上、脳萎縮(脳が縮むこと)が認められるか、
もしくは事故から間もない時期(急性期)に、脳内の点状出血やくも膜下出血などの脳内の異常所見がみられること
実は、医師の中にも、認定要素1・2の所見がみられなくても、高次脳機能障害の患者は明らかにいるという方もおられます。経験上私たちもそう思っていますし、認定要素1・2がなくても高次脳機能障害の疑いが強いとして損害を認定した高等裁判所の裁判例もあります。しかし、そうした事案が通常より認定が難しい事案であることは確かです。
高次脳機能障害認定の注意点
事故当初の意識障害は大したことはなく、またCTやレントゲンでも異常がみられないのに、明らかに高次脳機能障害の症状が発生しているケースは私たちの経験でも数多く存在します。
意識障害は軽いものでもある程度継続すれば高次脳機能障害の認めるうえで重要な要素となりますが、見逃されることもあるのではないでしょうか。例えば、重度の意識障害はどんな医師でも書いてくれますが、軽症の意識障害は、よほど医療機関が意識してくれない限りカルテに記録されにくいことがあるようです。
また、脳内の点状出血については、エックス線で写すCTには写らなくても磁力で写すMRIでは写るということもあるようです。しかし、MRIのほうが費用も高いとかの事情もあって、当初の意識障害が大したものでないと判断されれば、MRIまでは調べないこともあるようです。あとから写真を撮り直しても、その時点では点状出血などは確認できなかったりすれば、実際には高次脳機能障害と思われるのにその認定がされにくくなります。
高次脳機能障害の等級の考え方
上述のような認定要素があるか、その他の医証で大脳に何らかの傷があることが伺われれば、高次脳機能障害と認められます。高次脳機能障害と認められた場合、その労働や生活への支障の度合いによって、等級が認定されます。その等級認定の考え方は以下の表のとおりです。
障害認定基準 | 補足的な考え方 | |
---|---|---|
別表第1第1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
別表第1第2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
別表第2第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
別表第2第5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
別表第2第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
別表第2第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |