10歳の娘に万引きさせたら…
2017.12.26|吉村 友和
12月18日、福岡地裁で、10歳の娘に万引きを指示してランドセル等を盗ませたとして窃盗罪に問われていた母親に対して、懲役2年、執行猶予4年の判決が下されました。
刑法少々深く勉強した方なら、これを見て、「間接正犯か」とか、「またお遍路さん事件のようなことが起きたか」とか考えるのではないかと思います。
間接正犯とは、簡単に言うと、自分の手を汚さずに他人を利用して犯罪を実現した人を処罰するという理論です。
窃盗罪であれば、普通は実際に物を盗んだ人が処罰されます。
しかし、今回は、実際に物を盗んだ娘ではなく、娘に物を盗ませた母親が窃盗罪に問われています。
母親の言い分としては「窃盗罪が成立するとしても、それは実際に物を盗んだ娘についてである。自分は盗んでいない、だから自分は窃盗犯ではない。」と言いたいところでしょう。(もっとも、娘は10歳なので犯罪は成立しません。)
さて、間接正犯が認められるためには、難しく言うと、「他人の行為を自己の犯罪実現のための道具として利用した」といえることが必要となります。
今回の場合、ざっくり言うと、「娘は母親の道具だったのか」といえるかがポイントです。
判決文はまだ最高裁のHPや判例秘書等にアップされていませんが、以前から母親の指示で万引きをしていて、万引きをしないと怒られたり髪を引っ張られたりしたという事情があったようです。
そうすると、娘としては、「母親の言うことを聞かないと何をされるか分からない」と考え、母親の言うことを聞くほかない状況に置かれ、母親の意のままに動かなければならない、つまり、娘は母親の道具にすぎないといえるので、窃盗の間接正犯が認められたと考えられます。
冒頭で少し挙げた「お遍路さん事件」(最高裁昭和58年9月21日)では、父親と娘が二人で四国八十八カ所の巡礼の旅をしているときに、巡礼先の寺院や旅館で、父親が娘に命じて窃盗をさせたという事件です。
娘は12歳で、父親の養女でした。
娘は、日頃からしばしば父親に暴力を加えられており、タバコの火を顔面に押しつけられたり、ドライバーの先で顔面をこすられたりすることもありました。
こうしたことから、娘は父親に極度の恐怖心を抱いていたことや、旅先で父親しか頼れる人がいなかったことから、父親の命令に従うほかない状況であり、意思を抑圧されていたといえます。
そして、父親について、窃盗の間接正犯が成立すると判断されました。
今回の福岡地裁の事件については、娘と母親の間で、日頃からどのようなやりとりがあったかは分かりませんが、判決を読んで補足する点があれば補足したいと思います。
それにしても、裁判官からは母親に対し、「お子さんとの関係を時間をかけて考えてほしい」という説諭があったように、色々と考えさせられる事件です。
以 上