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弁護士ブログ

自筆証書遺言の方式-花押は駄目!とされた背景は?【№1】

2016.06.08|甲斐野 正行

   今年63日、最高裁は、沖縄県の男性が,自筆証書遺言として「家督及び財産はXを家督相続人としてa家を継承させる。」という記載を含む全文,上記日付及び氏名を自書し,その名下にいわゆる花押を書いたが,印章による押印がないというケースで、花押を押印の代わりに用いることはできず無効であるとの判断を示して、これを有効とした一、二審判決を破棄して、更に審理を尽くさせるために福岡高裁に差し戻しました(以下「本件最判」)。

 

日本史の教科書や資料集に戦国武将や大名の花押が載っていましたが、「花押」は、署名の代わりに使用される記号・符号で、署名を図案化したものです。戦国時代や江戸時代に限らず、明治以降でも、現在に至るまで、文書に花押を使用することは結構あるようです。

 

そうすると、何がいけなかったのでしょうか?

 

~自筆証書遺言の方式~

まず、平常時の遺言の仕方としては、公証人に依頼して作って貰う公正証書遺言が多いのですが、自分で遺言書全文を自書して自分の氏名を自署し押印して行う自筆証書遺言(民法969条)もそこそこあります。

金をかけずに、自分だけででき、何時でも書き直せるという手軽さが理由でしょう。

   ただ、現行法上,自筆証書遺言については厳しい方式が定められており,公証人等の専門家の関与も必要とされないため,これを厳格に運用・解釈すると、作成された遺言が方式違反で無効となり、被相続人の最終意思が遺言や相続に反映されないおそれがあります。そこで、裁判上も、被相続人本人の真意の確認と、その最終意思の尊重の調整を図る運用・解釈が図られてきました。

例えば、民法9681項は氏名の自書に加えて押印を要求していますが,近年,クレジットカード等の利用拡大により,署名のみで取引が行われる事例が増えてきたこと等を踏まえ,氏名の自署のほかに重ねて押印まで要求することには疑問があるとの指摘がされ、判例(最判平成6624日家月47360頁,最判昭和491224日民集28102152頁等)でも,押印に関する方式違反を理由に遺言が無効となることを回避する観点から,事案に応じてその要件を緩和する解釈がされています。現在、法務省では、民法の相続関係の改正作業を行っていますが、法制審議会民法(相続関係)部会第5回会議(平成2798日開催)では、自筆証書遺言の方式緩和が議論としてあげられ、押印に関する要件の削除も検討されたところです(http://www.moj.go.jp/content/001159605.pdf)(部会資料5)。

 

そういう流れの中では、この遺言者がこれまでも花押を使用してきたことやその遺言書における花押の形状等から遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないとして、遺言書を有効とした一、二審の判断も理解できる、というかむしろそれがトレンドという感じです。

 

   何が問題だったのでしょうか?


(つづく)