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弁護士ブログ

自筆証書遺言の方式-花押は駄目!とされた背景は?【№2】

2016.06.13|甲斐野 正行

(前回に続き)

  判例が認めてきた押印要件の緩和は、「指印」(最判平成元年216日民集43245頁)であったり、遺言書自体には押印はないが、遺言書を入れた封筒の裏面に氏名の自署と封じ目2箇所に押印がされた事案(上記最判平成6624日)であったりで、ともかくなにがしかの形で押印があるといえる事案でした。

まあ、それでも、遺言者の同一性と真意の確保という観点からは、花押でも賄えるじゃないか、という見方ができるでしょうが、本件最判が問題にしたのは、「民法9681項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書のほかに,押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解される」という点です。換言すると、押印がないと、その文書は完成したものとはいえない(可能性がある)、下書きと完成品の区別ができない、ということです。

指印による自筆証書遺言の有効性を認めた上記最判平成元年216日は、「いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがない」としていて、我が国の慣行ないし法意識によれば、指印はこの区別をする機能があるとしたのですが、本件最判は、花押については、「我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。」としたわけです。

 

この点は、指印と花押の社会的な位置づけや意識の違いと考えられますが、それ以前の問題として、自筆証書遺言について押印を不要とする案が改正作業で検討されたこととの関係で本件最判は前提がおかしいのではないか?という疑問も出てくると思います。

 

そこで、法制審議会の議論を追ってみますと、法制審議会民法(相続関係)部会第9回会議(平成28119日開催)の部会資料9(http://www.moj.go.jp/content/001172185.pdf)では、「部会資料5では,自筆証書遺言の方式のうち押印を不要とすることも提案していたが,この点については,押印は遺言書の下書きと完成品を区別する上で重要な機能を果たしており,これを不要とすることは必ずしも相当でないとの指摘がされた。これらの指摘を踏まえ,本部会資料では,押印を一律に不要とする考え方は採らないこととしている。」とあります。

つまり、平成2798日開催の第5回会議で提案された、押印の不要化案は、平成28119日開催の第9回会議に至るまでの会議において、遺言書の下書きと完成品を区別するという観点から相当でないとされ、採用されないことになったということです。

   推測ではありますが、立法論とはいえ、この法制審議会での議論については、最高裁も注視していたはずで、この議論の流れが、押印の不要化に傾いていれば、本件最判の押印の役割に関する上記の指摘は根拠が乏しいことになりますから、逆の結論の判決もあり得たのではないか、という気がします。
  その意味では、一、二審の担当裁判官は運が悪かったのかもしれません。もちろん、逆転敗訴した当事者もです。


以 上
 

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