交通事故(事故車について)【№1】
2016.12.16|根石 英行
修理ができたとしても愛車が事故に遭ったという過去は消えない。事故車は中古価格も下がるし、気持ちも悪い。加害者との交渉や事故のいろんな手続きで時間も取られるしストレスも多い。これらのことも事故がなければ起きなかったので、加害者に何か言えないか。これもご相談でよく聞くお話です。
まずは、事故の処理でかかった手間や時間についての償いがあるのかというと、このような賠償は認められません。ストレスは精神的苦痛ですので、慰謝料があるじゃないかと思われるかもしれませんが、物に関する損害での慰謝料は、ペットを失ったときなどの極例外的にしか認められず、愛車に関しての慰謝料は裁判では認められません。交渉に要した時間的なロスについても金銭賠償はありません。
愛車が事故車になってしまったことについてのロスは、評価損とか、格落損と言われる問題です。これは裁判所の結論から言うと一定の場合は認められる、ということですが、全ての車について認められるものではなく、また認められたとしても、十分に満足するものではないのが現実です。
そもそも修理ができたら、車は前と同じに動くようになるのだから、もはや損害はない、というのが一方の考え方です。修理ができても性能が落ちて車に機能的な問題が生じた場合に限って幾らか評価損が認められるという極めて限定したものです。今の時代修理技術も上がっていますから、機能的に回復していないというような場合はほとんどありません。
これに対して、中古市場や下取りでは、事故車は値段が下がるのが常識ですから、車の交換価値的な側面から言うと損失が発生しており、これを損害として賠償すべきである、という考え方もあります。ただ、交換価値が現実化するのは愛車を売ったときですから、売る前に損害が具体的に発生しているか、という問題があります。事故に遭った嫌な車は売ってしまおう、売ったら事故がなかったときより値段が下がったから現実の差額を加害者に請求できるはず、こういう理屈もあります。しかし、これも判例の取る考えではありません。事故に遭った車を修理せずに買い替えることが認められるのは、車が全損(経済的全損も含む)するか車体の本質部分に重大な損失が生じた場合に限られ、事故に遭ったというだけで買替を要求することができない、ということも確立した裁判所の考え方なのです。事故に遭っただけで買い替えることは許されないのに、交換価値の下落を直ちに被害者に補てんすることは、実際は買い替えたのと同じ利益を被害者に与えてしまうので法的に許されないという考えなのです。
【つづく】