NHK受信料最高裁判決-契約はNHK勝訴判決確定時だが受信料はテレビ設置時から?
2017.12.07|甲斐野 正行
昨日の続編です。
最高裁大法廷は、12月6日、放送法64条1項は受信契約を強制するもので、これは憲法違反ではない、という初めての判断を示しました。
これ自体は予想どおりで、合憲性の判断基準について、最高裁は、合理性をいうだけで、あまり深く突っ込んでいませんでしたね。公共放送の意義と必要性が否定されない以上、憲法論的には、その中立的な財源確保の手段として契約強制が合理的か、の問題になります。
別の選択肢としては税金の投入くらいしかなく、税金投入は、それはそれでテレビを持っていない人には不公平に思えるでしょうし、政府の紐付きになってしまうので公平性の確保の点から問題があるとすると、財源は受信料をメインに据えざるを得ないということで、合憲か違憲かという点では、裁判所的には結論は一本道ということだったかもしれません。
テレビ報道では、街頭インタビューで、NHKを見ていないのに受信料を払うのは嫌だとか、NHKは見たくないので、受信できないようにすればいい、という意見ばかりを拾っていましたが、個々人の好き嫌いや見る見ないとは離れた、公共放送の意義と必要性が契約強制の根拠となるわけですから、そうした意見だけ取り上げても議論がかみ合わない感じです。
契約強制が問題だというなら、今の様々なメディア・通信網が発達したご時世で今のNHKの巨大規模での公共放送を維持する必要性があるのか、に焦点を当てて問題提起すべきでしょうが、それは、国会でその当否を議論し決定すべき政策論で、裁判官に決めさせるべき事柄ではないように感じます。
それはそれとして、今回の判決の意義は、受信契約が強制されるとして、契約が何時成立するか、受信料は何時から支払わなければならないか、です。
契約成立時期については、NHKは、
① NHKがテレビ設置者に契約申込みをしたとき
② NHKがテレビ設置者を被告として、契約申込みに承諾するよう求める裁判を起こして勝訴し、その判決が確定したとき
という2段階の主張をしたようです。
新聞報道には、契約設置時点についてはNHKの主張を最高裁が退けたという言い方をしているものがありましたが、これは、NHKがこっちを優先的に判断してください、という意味で主張した①の成立時期を認めなかったというのが正確です。NHKが②も予備的に主張していなかったら、①を認めない以上、契約成立についてのNHKの主張がないことになって、NHKの受信料請求は棄却されることになります。
新聞報道には、最高裁が②の理屈を持ち出したと書いているものがありましたが、当事者が主張していないものを裁判所が勝手に認めることはできませんから、これは意地の悪いミスリードですね。
①なら、NHKの申込みだけで契約成立がみなされるので、NHKにとっては楽ですが、契約は双方の合意によるのが建前ですし、①では申し込んだ相手が実際にテレビを設置した人かどうかの確認もない状況で契約成立を認めることになりかねないという問題もあるでしょうから、抵抗があります。最高裁が、①は採用せず②をとったのは、放送法64条1項によりテレビ設置者がNHKからの契約申込みへの承諾を義務づけられるとしても、相手がテレビ設置者かどうかをきちんとNHKに立証させて裁判所がそれを確認するという段取りを踏むことが適切だと考えたということかもしれません。
次に、契約成立がNHKの勝訴判決確定時だとすると、受信料は契約が成立した勝訴判決確定時からの分を払えばいいんじゃないの?ということになるはずですが、そうはいきませんでした。
NHKの受信契約には、放送受信規約という一種の約款がついており、その規約では、テレビ設置時からの受信料の支払をすることが定められていて、これも含めて契約内容となります。最高裁は、その受信規約の定めは、設置者間の公平を図る上で妥当で有効だと判断し、これを根拠にテレビ設置時に遡って受信料を支払う義務があるとしました。
約款というのは、なかなか目を通す人もいないので、後で「エー!?」ということが多い厄介なものですが、これもそんな感じでしょうか。
そして、消滅時効については、NHKが法人なので、受信料は商事債権として5年の時効にかかるはずですが、契約が成立するまでは受信料の支払請求ができないので、NHKの勝訴判決が確定するまでは時効は進行しないということです。時効の趣旨は、権利の上に眠る者は保護しない、というものなので、権利行使をしようと思えばいつでもできることが、時効が進行する前提となります。
理屈的には当たり前といえば当たり前ですね。
ただ、契約をして受信料を支払わない人には5年の消滅時効の恩恵があることとバランスが悪い感じもしますが、契約成立が勝訴判決確定時という前提では、契約成立前に時効が進行するという理屈はなかなか難しく、やむを得ないというところでしょうか。実際には、何時テレビを設置したかをNHK側が立証することは困難で、あまり遡って請求することは通常はないでしょうから、そこでバランスがとれるということかもしれません。
今後の問題は、ワンセグ付きのスマホやパソコンなども受信契約の対象となるかどうか、という点があり、これは受信機能がある設備という形式的客観的な判断になりますから、裁判所に判断させると、ワンセグ付きのスマホやパソコンも放送法64条1項の要件に当てはまり、受信料の対象となりそうです。
NHKはスマホやパソコンにも徴収範囲を広げたいようですが、総務省は消極的とも聞いています。他業界にも影響が出るかもしれないので、行政的にはスマホやパソコンまで範囲を広げるのは、躊躇するでしょうし、スマホやパソコンにも課金されると、多くの人はテレビと併せて二重、三重に受信料をとられることになりますから、反発はもっと大きくなるでしょう。
インターネットの発達によりテレビの存在価値が薄らいでいる状況で、下手に受信料徴収範囲を広げようとすると、NHKにとっては、公共放送の意義やあり方の見直し議論が高まって、かえってやぶ蛇になるかも。