第47回勉強会についての報告(前編)
2017.09.29|吉村 友和
今回のテーマは「民法改正その1」として、主に消滅時効の改正点と瑕疵担保責任の改正点を取り上げました。
なぜ、民法が改正されるに至ったかというと、今の民法は120年前、つまり明治時代に制定された後、債権関係の規定(契約等)については、ほとんど改正されていませんでした。
しかし、120年前とは交通手段や通信手段、社会・経済は大きく変化していることを踏まえると、果たして今の民法で対応していけるのかという不安がありました。
また、条文の解釈について多数の判例や解釈論が実務に定着しており、法律実務家の間では当然の理解と思われることでも、国民一般にとっては条文を見ただけでは理解できない概念も多く、分かりにくい法律であるという声が上がっていました。
そのため、社会経済の変化への対応と国民一般に分かりやすい民法とするという観点から、今回の改正に至りました。
改正された民法が国民一般にとって分かりやすいものかといわれると、何とも言えませんが、法律を勉強してきた方にとっては、漠然としていた文言がはっきりとしていたり、条文にないけど当然のように考えてきたことが条文化されていたりと、わかりやすくなったと感じられると思います。
前置きが少し長くなりましたが、今回の勉強会で取り上げたテーマの要点を簡単にではありますが示したいと思います。
前編では、消滅時効の改正点を取り上げます。
⑴消滅時効の改正点
①主観的起算点の採用
今の民法では権利を行使できる時から10年とされている債権の消滅時効期間が、改正民法では「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」に改められました。
このように、改正民法では、「債権者権利を行使することができることを知った」という、債権者の認識を基準とする主観的起算点が採用されました。
通常、債権者は権利を行使することができる時を知っているため、債権の消滅時効は5年に短縮されたと考えてよいでしょう。
②短期消滅時効の廃止
今の民法では、業種ごとに異なる短期の消滅時効が定められています。
例えば、医師に対する治療費や建築工事の請負代金は3年、弁護士報酬や商売上の売掛金は2年、ホテルの宿泊費や飲食店の代金は1年で消滅します(飲み屋のツケは1年で時効にかかるという話は有名かと思われます。)
しかし、改正民法では、短期消滅時効は廃止され、飲み屋のツケも原則として5年で消滅する、つまり、今の民法に比べ延長されることになります。
もっとも、改正民法が施行される前に生じた債権については、今の民法の短期消滅時効の規定が適用されますので、例えば明日、飲み屋のツケ払いをしても、1年で消滅することになります。
③生命・身体に対する損害賠償請求権の特則
現行民法では、不法行為にかかる損害賠償請求権は、物を壊した場合でも、人の身体を侵害した場合でも「損害及び加害者を知ってから3年」または「損害発生から20年」を経過すれば請求できなくなります。
改正民法では、人の生命・身体を侵害した場合の損害賠償請求権については、「損害及び加害者を知ってから5年」に延長されました(物損については、「損害及び加害者を知ってから3年」のままです。)。
債務不履行に基づく損害賠償請求権についても、人の身体や生命を侵害した場合には、主観的起算点からの消滅時効期間は5年ですが、「権利を行使できる時」からの消滅時効期間は20年に延長されます。
これにより、債務不履行・不法行為のいずれでも損害賠償を請求することができるケース(例えば医療過誤など)でも、消滅時効の期間は統一されたことになります。
後編では、改正民法で採用される「契約不適合責任」について述べます。