暴行と傷害の違い
2017.11.17|松田 健
「日馬富士 貴ノ岩に暴行疑惑 ビール瓶で殴打」「鳥取県警、傷害容疑での立件可否を検討」などという報道が世間をにぎわせています。
せっかくの機会なので、この手の報道でよく出てくる「暴行」と「傷害」という言葉の法律的な意味について少しお話ししたいと思います。
日本の刑法には暴行罪という罪と傷害罪という罪があります。
そして、簡単にいうと、「暴行」をした結果、相手が「傷害」を負ったら傷害罪、「傷害」を負わなかったら暴行罪になります(厳密には、例外もありますが、それについてはあとでお話しします)。
では「暴行」とは何かというと、
「人の身体に対する不法な有形力の行使」
をいうとされています。
難しい言葉を使っていますが、要は、人に対して物理的に危害を加える行為のことです。
人を殴ったり、蹴ったりする行為が典型ですが、直接相手の体に接触しなくてもよいとされていますので、狭い室内で脅かす目的で日本刀を振り回す行為なども「暴行」にあたるとされています。
そして、この「暴行」の結果、相手が「傷害」を負ったら傷害罪が成立する訳ですが、この「傷害」というのは、
「身体の生理的機能の傷害」
をいうとされています。
これも難しい言葉を使っていますが、簡単にいうと、人の体が本来持っている機能が失われたこと、というくらいの意味でしょうか。
分かりやすい「傷害」は、骨折や打撲などの怪我ですが、この他にも例えば、めまいや失神、病気の罹患、PTSD(外傷後ストレス障害)なども「傷害」にあたるとされています。
したがって、例えば、相手を殴るという「暴行」を加えた結果、相手が骨折等の「傷害」を負えば、傷害罪になり、「傷害」を負わなかった場合(例えば頬を平手打ちしたような場合)には暴行罪になるわけです。
今回の日馬富士のケースがどうかというと、その後「ビール瓶では殴っていない」とか「骨折はなかった」というような報道も出て情報が錯綜しており、事実関係がよく分かりませんので、現時点ではなんともコメントのしようがない、というのが実際のところです。
以上が原則ですが、例外として、「暴行」がなくても傷害罪が成立する場合があります。
たとえば、いやがらせ電話を架けて相手を精神衰弱症にしたり、長期間にわたってラジオや目覚まし時計のアラーム音を大音量で流し続けて相手を慢性の頭痛症にしたような場合です。
この場合、いやがらせ電話を架けることや、ラジオや目覚まし時計のアラーム音を大音量で流し続けることは、「人の身体に対する不法な有形力の行使」ではないため「暴行」にあたりませんが、精神衰弱症、慢性の頭痛症などの「傷害」を生じさせているので、傷害罪が成立する訳です。
同様に、性病であることを隠して性交して相手に病毒を感染させた場合も、「暴行」の事実はありませんが、病毒の感染という「傷害」を発生させているため傷害罪が成立する場合があります。