昭和45年の判例による解釈が変更される可能性も・・・
2017.11.08|根石 英行
13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いてわいせつな行為を行った場合は、6月以上10年以下の懲役が科せられます。13歳未満の者にわいせつな行為を行った場合も同様です(刑法176条)。
わいせつな行為とは、簡単に言うといやらしい行為ですが、それは被害者にとって性的な自由を侵害し、他人が見ても性的な羞恥心を覚えさせるような行為と言えるだけではなく、行為者についても自分の性欲を興奮させたり満足させたりするという性的な意図が必要であるというのが最高裁判所の判例による解釈でした(昭和45年1月29日判決)。この性的な意図は、自分が行っている行為についての認識、例えば被害者の体の一部を触っているという認識(故意)に加えてさらに必要なものであり、それによって、同じ体を障る行為であっても介護や医療行為でする場合はわいせつ行為にはならない、と説明されています。昭和45年の判決は、脅かして女性を裸にして写真を撮った、という事件ですが、その目的が女性への報復や嫌がらせということであって性的な意図はなかったとされたので、強制わいせつ罪にならない、とされたものです。
この性的な意図についての判例の解釈が変わるかもしれません。
今回の事件は、13歳未満の女児の体を触っている様子を携帯電話で撮影したことが強制わいせつ罪に問われたものです。被告人は、知人から金を借りる条件として、わいせつな画像を送るように言われてやったもので、性的な意図はなかったと弁解していましたが、大阪高裁の判決は、客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,犯人がその旨を認識していれば,性的意図が認められないにしても,強制わいせつ罪が成立するとしたため、これまでの最高裁の判例に違背するとして上告されたものです。
この事件の最高裁の上告審の弁論がさる10月18日に開かれました。弁論は15人の裁判官全員の参加による大法廷で開かれましたが、大法廷は判例を変更する場合などに開催されることから、昭和45年の判例による解釈が変更される可能性が高まったと言えます。(http://www.sankei.com/affairs/news/171018/afr1710180018-n1.html)
性的な意図が必要であるとして強制わいせつ罪の成立範囲を狭めようという考えもありますが、介護や医療などの行為とわいせつ行為を区別するためには意図だけではなく行為の外形的な状況から区別することも可能でしょうし、被害者保護の観点からは、被害者の性的自由が侵害されているかどうかが重要なので、犯人に性的な意図がなければ強制わいせつ罪にならないというのは被害者保護に欠けるとも言えます。なお、性的な意図がなくて強制わいせつ罪にならなないとしても、今回のような行為が直ちに犯罪にならないわけではありません。
いずれにしても、年内にも出される可能性がある最高裁判所の強制わいせつ罪についての判断が注目されます。