「穴があくまで」?「名代 めいだい?なだい?」-言葉は難しい
2018.03.19|甲斐野 正行
仕事柄、どうしても言葉には敏感になるのですが、昨日(3月18日)民放の、コロッケさんが飛騨高山を巡る旅グルメ番組を見ていたら、高山で有名な焼きそばのお店をコロッケさんが訪れるシーンがありました。私も以前高山を旅した際にチェックしたお店でしたから、ああ、あの店という感じでしたが、そのときのナレーションに思わず椅子から落ちそうになりました。ナレーターが「めいだいの焼きそば屋さん」とのたまわったのです。そのときの画面ではお店の外観と「名代 焼きそば」の文字が白抜きしてある暖簾・幟が映っていましたから、ナレーターは「名代」を「めいだい」と読んだわけです。
「名代」は、その使われる意味によって読み方が異なり、代理人という意味では「みょうだい」と読み、他方、店名や商品名に付けて、名高い、評判が高いという意味で使われる場合は「なだい」と読むのが通常でしょう。ですから、このお店については「なだいのやきそばや」というべきだったのです。これを「めいだい」と読むのはさすがに例がなく誤読というべきでしょう。
漢字や熟語の読み方の誤りとしては、「直截」も多く見聞きします。これは「ちょくせつ」と読むのが正しく、「ちょくさい」というのは字の作り(ほこづくり)が似た「裁」「栽」「載」と間違えて読んだものと思われますが、あまりに「ちょくさい」と読む人が多く、いつの間にか「ちょくさい」の方が通りがよくなった感があります。
何年か前に、広島の某大手地元新聞で「直截」にわざわざ「ちょくさい」とフリガナを振っているのを見て、世も末と衝撃を受けたものです。
ちなみに、「直截」の「截」は「切る」「断つ」という意味の字で、「直截」は、ためらわずに、すぐ決裁する、とか、まわりくどくなくズバッと(物を言う)という意味です。
同じ読みでも「直接」は、間に何も挟まずに接するという物理的な状態を意味します。
あえて「直截」という言葉を使う以上、意味やニュアンスの違いを意識したはずですが、読み方にまで気が回らないことが多いということでしょうか。
1月にも、民放のニュースを見ていたら、日ハムの清宮選手がNPBの新人研修後、野球博物館を見学したことが取り上げられていて、女性アナウンサーが、清宮選手が、展示されていた王さんの現役時代のユニフォームを「穴があくまで」見ていました、と言いました。ユニフォームに穴をあけるとは、さすが清宮君は凄い目力で、視線が矢になってユニフォームに食い込むかのようです。
もちろん、これは「穴があくほど」と言うべきですが、原稿を読みながら言っていたので、言い間違いではなく、原稿自体が間違っていたと思われます。
しゃべり言葉では、誤用が逆に主流となって正しい言い方読み方を駆逐することが言語学的には当たり前の現象で、「新し」も大昔は「あらたし」であったはずですが、いつの間にか元々は誤用のはずの「あたらし」が正用になってしまっています。日本語だって、英語だって、古語とは大きく変わっています。
略語や誤用の多い若者言葉もいろいろ批判がされますが、しゃべり言葉とはそんなものというぐらいのほうがストレスがなくていいのかもしれません。
法律用語でも同音のものがあり、典型的なものは、「勾留」と「拘留」です。
「拘留」(こうりゅう)というのは滅多にないのですが、懲役・禁錮と同じく自由刑で、1日以上 30日未満の範囲で監獄内に拘禁する刑罰です。
他方、「勾留」(こうりゅう)とは、逮捕の次の段階で、被疑者、被告人が逃亡したり、証拠隠滅をしたりしないように身柄拘束する手続をいいますが、マスコミ、特に新聞は「勾留」という言葉はあえて使わず、「拘置」(「こうち」)という表記に長い間こだわっています。
広い意味で身柄拘束することを意味する「拘置」の方が国民になじみがあるという説明をされることもあるのですが、どちらかというと、判決確定前の未決段階の身柄拘束である(つまり刑罰ではない)「勾留」と、刑罰である「拘留」と混同されないようにするため、というところが大きいようです。
しかし、同音の言葉はこれに限ったことではなく、その違いを紙上で説明し啓蒙するのもマスコミ、特に紙媒体である新聞の使命であり、かつ、得手とするところでしょうし、あえて長く刑事訴訟法に明記されてきた言葉を使わずに、刑事訴訟法にない言葉を使うのはかえって混乱させるように思うのですが。