改正債権法拾遺~施行までに整理しておくべきこと①-経過措置その7~法定利率Ⅰ
2020.01.23|甲斐野 正行
引き続いて改正債権法の経過措置の例外的規定の重要なものとして、「法定利率」を見ていきます。
「法定利率」というのは、例えば、お金の貸し借りで、弁済期までの利息や、弁済期に返せなかった場合の遅延損害金について、貸主(債権者)と借主(債務者)の間で利率を定めていない場合(定めている場合には原則としてそれに従います。約定利率といいます。近時の銀行の預金利息の利率は極めて低率で、普通預金だと年0.001%というところでしょうか。)に適用される、法律によって定められている利率です。
現行民法(404条、419条)では年5%、商取引の場合は例外的に年6%(現行商法514条)と固定利率で定められていますが、債権法改正により、法定利率は3%に統一され(現行商法514条は廃止)、3年ごとに1%単位で見直す制度が導入されました(改正法404条)。
多くの方にとっては、契約に定めがあって、約定利率でまかなわれることが多く、法定利率はあまり関係がない、というか、意識しないことが普通かも知れませんが、私たち法律実務家にとっては、訴状での請求の趣旨の書き方のところから、頻繁に出てくるものですので、端境期では気をつける必要があります。
利息や遅延損害金は一定期間にわたって発生していくものですから、施行日をまたぐ場合にどうなるのか、という問題があるのですが、この点については、元本となる債権の契約締結日や発生日が施行日前か以後かという基準ではなく、最初の利息が生じた時点や最初に遅滞に陥った時点が施行日前か以後かを基準として考えます。
施行日前に利息が生じた場合には、その利息を生ずべき元本債権について現行法(非商事債権の場合は現行民法404条により年5%、商事債権の場合は現行商法514条により年6%)が適用されます(附則15条1項、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〔以下「整備法」〕4条3項前段)。
これは、その元本債権について施行日以後に生ずる利息についても現行法が適用されるということです。もっとも、金銭の消費貸借契約では、利息は通常貸付日から発生すると定められるので、その場合、貸付日が施行日前なら利息も施行日前に発生することになり、現行法が適用されることになります。
遅延損害金の場合は、元本債権の履行遅滞が施行日前に生じたなら、現行法が、施行日以後に生じたなら改正法が適用されることになります(附則17条1項、整備法4条3項後段)。ですから、契約に基づく債権の場合は、その契約が施行日前の締結であっても、定められた弁済期が施行日以後であれば、遅滞に陥るのも通常施行日以後になるはずですから、改正法が適用されることになります。他方、不法行為(例えば交通事故)に基づく損害賠償請求権の場合は、不法行為時から遅滞に陥るとされますので、不法行為である交通事故が施行日前なら、現行法が、施行日以後なら改正法が適用されることになります。
ただ、遅延損害金については、注意すべきことがあり、ちょっとややこしいので、これについて次回見ていくことにします。
以 上