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弁護士ブログ

「河井克行元法相 やはり実刑判決!」

2021.06.21|甲斐野 正行

   公職選挙法違反(加重買収・事前運動)事件で起訴され勾留中の河井克行元法相に対し、先週(6月18日)、東京地裁は、懲役3年、追徴金130万円の実刑判決(求刑は懲役4年、追徴金150万円)を言い渡しました。
 
 河井克行元法相は、当初は全面無罪を主張していましたが、その後今年3月の被告人質問では公訴事実の大半を認め、議員辞職や今後の選挙に立候補しないことも宣言して、争点は専ら量刑、つまり、執行猶予がつくかつかないか、に絞られていたのですが、東京地裁は、執行猶予は認めず、実刑判決を言い渡しました。

 起訴された事実は、妻の河井案里元議員が初当選した参議院選挙をめぐって、その選挙活動の総括主宰者の立場で、広島の地方議員や後援会のメンバーなど100人に合計約2900万円を配ったというもので、被買収者の数、配った金額ともに稀に見る大型買収事件といえます。
 このような選挙犯罪は、窃盗や傷害などと違って、具体的な被害者がいるわけではありませんが、公正な選挙は民主主義の根幹ですから、その公正を害する選挙犯罪では、まさに民主主義、更には国民全体が被害者ともいえるわけです。
 
 しかし、通常の買収罪(公選法221条1項1号)の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金であり、選挙活動の総括主宰者の場合は法定刑が加重されますが(同条3項2号)、それでも4年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金にとどまります(河井さんの場合、更に複数の公選法違反が認定されているので、併合罪(刑法47条)として加重され、単独の加重買収罪の1.5倍の懲役6年が上限になります)。

 懲役3年以下という点で通常の買収罪と同じ程度の法定刑の犯罪をみると、名誉毀損罪(刑法230条)、業務妨害罪(刑法233条)、住居侵入罪(刑法130条)、公務執行妨害罪(刑法95条)などといったところがすぐに思いつくところですが、いずれも初犯ではほぼ起訴猶予か、起訴されても執行猶予か罰金が定められている場合は罰金にとどまる犯罪です。
 加重買収罪であっても、懲役4年以下(このような中途半端な法定刑は珍しいかも)ですから、加重がついたからといって、初犯の場合、それだけでは実刑になることは想定されにくいといえます。

 執行猶予がつけられるのは、裁判所が判決で言い渡す刑(宣告刑といいます)が3年以下の場合に限定されます(刑法25条)。この宣告刑の決め方は下記の※豆知識をご参照ください。

 そうすると、法定刑が3年超の場合、例えば、死刑または無期もしくは5年以上の懲役の殺人罪(刑法199条)、懲役5年以上の強盗罪(刑法236条)や強制性交等罪(刑法177条)などは、心神耗弱や自首などの刑の減軽事由がない限り、宣告刑を3年以下にすることは法律上不可能ですので、そもそも執行猶予のハードルは極めて高いわけです。

 それだけ法は、こうした犯罪類型を重くみているということです。

 逆に、宣告刑が3年以下の場合に必ず執行猶予がつくわけではないとはいえ、法定刑自体が初めから3年がてっぺんというのは、執行猶予へのハードルは初めから低くなっており、宣告刑は、通常上限の3年より相当程度低くしますから、それだけ執行猶予がつきやすい、もっというと、軽い犯罪として想定されているともいえるわけです。
 河井さんの場合でも、併合罪加重した処断刑が6年以下の懲役又は禁錮ですから、特に刑の軽減事由がなくても、3年以下の宣告刑を選択することが法律上可能ですから、執行猶予をつけることも法律上可能なわけです。

 実際にも、公選法違反事件では、起訴されて有罪となっても、ほとんどは執行猶予がついており、実刑となることはなかなかなかった、といえます。

 民主主義、あるいは国民全体に対する犯罪なのに、そういうので良いのか?とお考えになる方は多いでしょうし、私も同じ思いではあるのですが、現在の公選法はそうなっているわけです。

 そうすると、国会議員の先生方がどうお考えになってどう行動されるのかですし、有権者としても、その点をどこまで重要なものとして候補者や現職議員に求めるかに帰するともいえます。
 
 そういうところを踏まえてみると、今回、河井元法相が実刑判決となったというのは、その被買収者数や金額、彼自身のこの件についてのそれまでの言動も含めて極めて悪質だったということですね。

 他方、彼を弁護する側としては、公訴事実のほとんどを認めて情状で勝負する方向に動いたのですが、有効な情状のカードは意外となかったように思います。

 議員を辞職するといっても、どのみち有罪となれば、失職する方向になるわけですから、プラスに働くほどの有利な事情とはいいにくいでしょう。
 また、今後立候補しないと宣言しても、これもどのみち判決確定後5年間は立候補できませんし、その後も立候補の道は閉ざされるか、その可能性は非常に乏しいでしょうから、これも裁判官の心に響くかというと、どうでしょうか。
 執行猶予を獲得するための決定打にはなりにくいでしょうね。
 
 そして、具体的な被害者がいませんので、他の犯罪なら通常は有効な被害弁償というカードは使えませんでした。

 しかし、貰った議員報酬を返納するということができるようになれば、ある意味国民への被害弁償的な情状として重視されるようになると思われます。

 身柄拘束中の議員報酬を支給するのか、どうするのかが国会で今更ながら議論されているようですが、一切不支給というのも憲法上疑義があるということで、一旦支給を受けた後で返納することが容易になるような制度を設けることも議論されており、その背景としては、刑事事件での情状のカードとして活用したいというニーズもあるようです。

※豆知識
 「法定刑」=法律がその犯罪について言い渡すことが出来る範囲として決めている刑の上限・下限
 ↓
 「処断刑」
 上記の併合罪や再犯のような刑の加重事由や、心神耗弱、自首のような刑の軽減事由がある場合にその法定刑の上限・下限を刑法の定めるやり方で増減させたもの
 ↓
 「宣告刑」
 その処断刑の範囲内で、裁判官が「宣告刑」を決める。

                             以 上

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