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弁護士ブログ

「同一労働同一賃金の原則⑤~住居手当と家族手当 パート2」

2021.10.18|甲斐野 正行

    前回に続き、以下の5つの最高裁判決を踏まえて、住居手当についてもう少し見てみましょう。

 ①ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号88頁)
 ②長澤運輸事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号202頁)
 ③大阪医科大学事件(最判令和2年10月13日・集民第264号63頁)
 ④メトロコマース事件(最判令和2年10月13日・民集第74巻7号1901頁)
 ⑤日本郵便事件(最判令和2年10月15日・集民第264号95頁(福岡事件)、同号191頁(大阪事件)、同号125頁(東京事件))


  今回は、正社員の中で、人事制度上、転居を伴う配転が予定されている者とそうでない者がいるのに、正社員に一律住宅手当が支給されるのに対し、有期社員には一切支給されないという場合はどうか、という問題を考えます。

 この論点については、④事件の控訴審、⑤事件の東京事件・大阪事件の各控訴審で判断がされています。

 まず、④事件の控訴審では、正社員には転居を伴う配転の有無にかかわらず一律に住宅手当を支給するのに対し、有期社員には支給しないことについて、生活費補助の必要性は職務内容によって差異が生じるものではない、正社員の異動の範囲はほぼ東京都内にとどまり、転居を必然的に伴う配置転換は想定されていないため、契約社員より正社員の住宅費が多額になり得るという事情はない、として、違法と判断しました。
 
 また、⑤事件の東京事件・大阪事件の控訴審でも、正社員の中で転居を伴う異動が予定されていない者にまで住宅手当が支給されていることから、いずれもその格差を違法と判断しました。

 ④事件と⑤事件では、いくつかある争点の中で、この住宅手当の問題については、最高裁が上告不受理(後記の※をご参照ください)とし、控訴審の判断で確定しましたので、正社員の中で転居を伴う配転が予定されている者とそうでない者がいるのに、正社員に一律住宅手当が支給されるのに対し、有期社員には一切支給されないという場合はどうなるのか、については、結局、④事件・⑤事件の最高裁判決では判断が示されていません。

 最高裁が不受理決定をした事件の高裁の判断は、必ずしも法令解釈として、判例性を持つものではないと解されていますし、福利厚生という趣旨からすると、使用者の裁量が尊重されるべきであり、有為な人材を確保するという観点から正社員にのみ住宅手当を出すというのも不合理ではないのではないか、という考えもあるのですが、不受理決定により、結論として、④事件・⑤事件の各控訴審の判断が維持されていますし、その控訴審の判断は理屈としては筋が通ったものでもありますので、その控訴審の判断の重みは否定できないところです。

 そうすると、今後の余計なリスク回避のためには、転居を伴う異動が予定されていない正社員にも住宅手当を支給するのに、有期社員には支給しないという制度設計は見直すのが無難でしょう。

 ちなみに、厚労省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、転勤者社宅について、「通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならない」とされていますので、ご参考までに。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html


 住宅手当については、もう一つ、定年後再雇用社員の問題がありますが、これは次回パート3で。

 
※上告不受理って何?
 上告不受理というのは馴染みのない言葉ですが、最高裁は、上告及び上告受理申立ての理由がある場合にのみ、その判断を示すこととされ、上告及び上告受理申立て理由がない場合には、決定により、その請求を棄却又は不受理とすることができます(民訴法312条、318条)。
 上告受理申立て制度(民事訴訟法318条1項)は、上告審として受理するかどうかを最高裁が判断する制度で、上告受理の要件は、「法令の解釈に関する重要な事項を含むもの」です。
 重要な法律問題を含む事件として最高裁内部で審議の対象になりながら、結果としては、その半数近くが判決ではなく、不受理決定の処理で終わっている現状があるといわれます。
 その理由は、次のような場合です。
1 ほぼ同一内容の訴訟を複数の原告が起している場合に、どれか一つについて上告を棄却し、残りは不受理決定となる場合
2 既に最高裁判例が確定しており、現段階で変更の必要はないと判断される場合
3 紛争の実質に照らしてみた場合、最高裁がここで理論的な決着を付けることが適当か疑問がある場合
ⅰ 紛争自体が些細なもので最高裁判例を形成することが適当かどうか疑われる場合
ⅱ 紛争の内容は実質的に重要なものであるが、これまでになかったような新しいタイプの紛争で、先例もなければ学説等での議論も殆どなされておらず、現状では見通しが付け難い場合(下級審の裁判例や学説が積み重ねられて、最高裁が判断を示すのに機が熟すのを待つのが適当な場合)
 

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