「同一労働同一賃金の原則⑤~住居手当と家族手当 パート3」
2021.10.25|甲斐野 正行
前回、前々回に続き、以下の5つの最高裁判決を踏まえて、住居手当についてもう少し見てみましょう。
①ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号88頁)
②長澤運輸事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号202頁)
③大阪医科大学事件(最判令和2年10月13日・集民第264号63頁)
④メトロコマース事件(最判令和2年10月13日・民集第74巻7号1901頁)
⑤日本郵便事件(最判令和2年10月15日・集民第264号95頁(福岡事件)、同号191頁(大阪事件)、同号125頁(東京事件))
今回は、正社員と定年後再雇用の嘱託乗務員とで転居の有無については条件は変わらないのに、正社員には住宅手当が支給されるのに対し、定年後再雇用社員については支給されないという場合はどうか、という問題を考えます。
この論点については、②事件の最判で判断がされています。
前回見た①事件の理屈からすれば、転居の有無について差異がないのなら、定年後再雇用社員に住宅手当を支給しないのは合理性がなく違法ではないか、と思われるところです。
ところが、②事件最判は、これについてその区別は不合理なものとはいえず合法だとしました。
その理由として、②事件最判は、住宅手当は、従業員の住宅費の負担に対する補助として支給されるものであり、労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであるから、その趣旨に照らして、労働者の生活に関する諸事情を考慮することになるとしたうえで、
ア 正社員には、嘱託乗務員と異なり、幅広い世代の労働者が存在しうるところ、そのような正社員について住宅費を補助することは相応の理由がある、
他方、
イ 嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでは会社から調整給を支給されることとなっていること
を総合考慮すると、正社員に対して住居手当を支給する一方で、嘱託乗務員には支給しないという労働条件の相違は不合理と評価することができるとはいえない、と述べています。
結局、嘱託乗務員は、正社員として勤続して(住居手当の恩恵は恐らくその間は受けていた)定年退職した後も、高齢者雇用継続制度の恩恵を受けて、再雇用されて給与を受け続けられるうえ、給与額はある程度下がっても年金支給が予定され、その報酬比例部分支給開始までは会社が調整給を支給するので、埋め合わせがされるので、正社員との区別が不合理とまではいえない、ということかと思われます。
なお、②事件最判は、いわゆる家族手当(つまり、一定の範囲の扶養家族がいる社員に対し、生活の補助として支給される手当であり、扶養手当とか、配偶者手当、子ども手当などという名称の場合もあるかと思われます。)についても、生活保障の趣旨で支給されるものであり、住宅手当と同様、嘱託乗務員に支給しないことは不合理とはいえないとしています。
もっとも、これも調整給の有無などの条件次第ではあり、各会社での定年後再雇用社員への配慮のあり方が問題になると思われます。