改正債権法拾遺~施行までに整理しておくべきこと①-経過措置その2
2019.12.05|甲斐野 正行
引き続いて改正債権法の経過措置です。
経過措置その1で触れましたように、改正債権法では、意思表示や法律行為のされた時期が改正法適用の基準とするのを原則としており、多くの経過措置では、債権の発生時点や契約締結時点が基準時となっています(附則2条、3条、5条等)。
この原則について留意すべきは、まず、施行日以後に債権又は債務が生じた場合であっても、その原因である法律行為が施行日前にされたときは、施行日前に債権又は債務が生じた場合に該当することです(附則10条1項、17条1項)。
また、新旧両法とも、意思表示の効力は相手方に到達した時から生じるのが原則なのですが、「隔地者(当事者が遠隔地にいるなどのために何らかの意思表示をする際、その意思表示が到達するまでに時間を要する場合)」間の契約はちょっと注意が必要です。
手紙で承諾の意思表示を出すようなときですね。
現行民法は、「隔地者に対する意思表示はその通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」という「到達主義」の原則(現行民法97条1項)の例外として、「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。」という「発信主義」をとっています(現行民法526条1項)。早く契約を締結させて取引を迅速にさせようという趣旨です。
しかし、契約の承諾通知の発信時に契約が成立すると、申込者が知らない間に履行遅滞に陥るおそれがあるなど、申込者が不測の損害を被るおそれがあります。
また、当事者が迅速な契約成立を望むのなら、メール等を使えばよく、迅速な通信手段のある現代社会においては、例外規定を置く必要性に乏しいこと(インターネット上の取引においては、すでに電子消費者契約法において、到達主義が採用されています)からこの条文については批判が多く、改正債権法では、例外としての発信主義を規定した現行民法526条1項を削除し、隔地者かどうかを区別せず、およそ「意思表示は、相手方に到達した時からその効力を生ずる」という全面的な到達主義をとることになりました(改正債権法97条1項)。
そうすると、隔地者間の契約の承諾の意思表示についてのルールが、改正債権法と現行民法とで異なることになりますが、附則6条2項は、「施行日前に発信された意思表示については、新法第97条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」とし、また、附則29条1項は、「施行日前に契約の申込みがされた場合におけるその申込み及びこれに対する承諾については、なお従前の例による。」としています。
「なお従前の例による」というのは、前回見たように、改正前の法令が適用されるという意味ですから、2020年3月末以前に承諾の意思表示を発信していた場合は、改正債権法ではなく、現行民法が適用されることになり、現行民法526条1項により、発信時に契約が成立することになります。ここは条文操作が分かりにくいので、注意が必要です。
次回も、もう少し、経過規定を見ていきます。
以 上